「三丁目の夕日」が描く昭和は、本当に良い時代なのか?

2008.09.15

ライフ・ソーシャル

「三丁目の夕日」が描く昭和は、本当に良い時代なのか?

中村 修治
有限会社ペーパーカンパニー 株式会社キナックスホールディングス 代表取締役

映画「三丁目の夕日」の全篇に溢れている夢と人情に、 素直に目頭を熱くもするが・・・ 経済成長の止まった平成のこの時代に、 あの頃の憧憬にどっぷりつかって思考停止することには、いささか反発を覚える。 ぽっちゃん便所のあの時代に・・・ 昭和37年生まれの私は、戻りたいとは思わない。

日本は、治安が悪くなった。
凶悪犯罪が増えたと騒いでいるが・・・

日本殺人認知件数
S30 3,066
S35 2,844
S40 2,379
S45 1.989
S50 2,024
S55 1.684
S60 1,780
H01 1,308
H05 1,233
H10 1,388
H15 1,452
H18 1.309
H19 1.199 
日本の犯罪統計によると、その殺人件数は、年々減少している。

人口10万人当たりの殺人発生率を見ると、日本が、0.62人。アメリカは、その約10倍の6.8人。お隣の韓国は、約2.5倍の1.62人。南アフリカに至っては、約120倍の75.3人だ。

日本は、親殺し、子殺し=「家庭内殺人」が増えたと騒ぐが・・・
殺人発生の総数が減れば減るほど、
面識のない人間同士の殺人数が大きく減少していき、
自然と、家庭内殺人比率が数字上、上昇していくというわけで、
「家庭内殺人」の総数そのものが増えているわけではない。
むしろ減っている。

世界一というほど殺人発生率は少ないのに、
世界一というほど殺人事件を報道する国が、日本というわけだ。

少年犯罪を、ゲーム体験等によるバーチャル世代の犯罪とマスコミは決めつけるが・・・私達自体が「異常殺人ばかり」というマスコミの作り出したバーチャルにはまっているという認識を持った方が健全である。

マスコミは、「日本は悪くなっていると言った方」が、視聴率がとれる。
実質的利益は、「現在を悪とした方」が効率的にとれる。

そういう原理だけで、昨今の昭和ブームが動いているのではないかと懸念する。

そう輝いてもいない21世紀の現在。
「右肩上がり」の成長は、もう期待できない。
その中で、輝くであろう21世があるから美化できた昭和30年代を、
手放しで賞賛し、
「昔は、良かった・・・」「いまの若い者は・・・」というのは、
いささか、大人として無責任であるっ。

日本は、決して、犯罪大国ではない。
交通事故も、犯罪件数も、全部減っている。
増え続けているのは、
「犯罪の報道の量」と「大人たちの未来なき悲観論」と「自殺者」だっ。
現在が悪なのではなくて、それを見る目、伝える手が、悪になったのだっ。
かつての貧しさや不幸を是とせず、
これからの貧しさや不幸を想像もせず、
他人事のように、現在の貧しさと不幸を糾弾するっ。

現在の日本に足りないのは・・・
自分は、これからも貧しい人間になりうることがありうるという想像力。
自分も、犯罪の加害者になりうることがありうるという想像力。
「平凡に生きる」ことへの寛容だっ。

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中村 修治

有限会社ペーパーカンパニー 株式会社キナックスホールディングス 代表取締役

昭和30年代後半、近江商人発祥の地で産まれる。立命館大学経済学部を卒業後、大手プロダクションへ入社。1994年に、企画会社ペーパーカンパニーを設立する。 その後、年間150本近い企画書を夜な夜な書く生活を続けるうちに覚醒。たくさんの広告代理店やたくさんの企業の皆様と酔狂な関係を築き、皆様のお陰を持ちまして、現在に至る。そんな「全身企画屋」である。

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