奇跡を連発する出版社がある。年間8万冊、一日平均で200冊以上もの本が世に出る中、確実にスモールヒットさせているミシマ社だ。しかも同社は業界の常識を破り、取次を通さず本を流通させている。ミシマ社の一見型破りに見える逆転の発想を探る。
「読者にいちばん近いところにいるのが書店員さんですよね。しかも彼らは生粋の本好きでしょう。だから、おもしろい本には敏感なんだと思います」
ミシマ社がめざしているのは、出版界のスタジオ・ジブリのような存在だと言う。いつも次回作が待ち望まれる存在であり、しかもそうした期待を上回る作品を出し続け、結果的につねにベストセラーとなる。
「10年後に、僕たちがやってきたことが出版界の一つのあり方になっていたらいい。と思わないでもないですが、あくまでもやるべきことをきっちりとやるだけです。地道にがんばります」
ミシマ社のキャッチフレーズは「自由が丘のほがらかな出版社」だ。このキャッチフレーズこそが、もしかしたらミシマ社の『不思議なやり方』を言い表しているのかもしれない。すなわち数字を追わず、流行を追わず、ヒットも追わず、ただ「おもしろい」本をじっくり作る。モノ作りの一つの原点が、間違いなくここにある。
▲企画会議が行なわれるちゃぶ台
ミシマ社の企画会議は、このちゃぶ台を取り囲んで行なわれる。雰囲気ほっこり、内容きっちりが、その特徴だ。
~特集インタビュー
「日本一ユニークで志の高い出版社、その不思議なやり方」完~
『株式会社ミシマ社関連リンク』
・株式会社ミシマ社
http://www.mishimasha.com/index.htm
・ビジネス専門パブリッシング。ビジパブ
http://www.bijipub.jp/
・株式会社ミシマ社のblog
http://blog.mishimasha.com/
【Insight's Insight】
「本はマーケティングでは作れないんじゃないでしょうか」
今回のインタビューでは、三島氏のこの言葉が強烈に印象に残っている。今の世の中、何をするにも効率が重要な課題であることは間違いない。非効率は、エコロジーの観点からみても良くない。効率的にモノを作るなら、まずニーズに合ったものをと考えるのはごく自然な流れだ。だからこそマーケティングが重要なのであり、一種のマーケティング至上主義ともいえる風潮も当たり前のこととして受け止められている。
しかし、マーケティングだけで考えていては、こぼれ落ちてしまうものがあることを忘れてはいけないのだ。効率に走りすぎたとき失われてしまいがちなのは人間の『知』に関わるすべてのものと言っていいのかもしれない。すなわち本作りがそうだし、おそらくは教育もそう。
もちろん巧みなマーケティングを使えば、一時的にヒットする本を創りだすことは可能だろう。たとえば100万円ぐらいの販促予算を組み、短時間で集中的にAmazonでその本を買う。するとその本は一気に上位にランキングされるはずだ。その結果を見て、多くの人が吸い寄せられるように買ってしまう。そんな仕掛けもあり得ないわけではない。
しかし、そんな本が果たして10年残るだろうか。あるいは海外から翻訳のオファーが来るだろうか。ミシマ社の本作りのすごさは、本というモノ(それは人類の知的財産とでもいうべきものだ)の本質をきっちりと押さえていることにある。本の本質とは三島氏のいう「おもしろさ」である。
「おもしろさ」を求めるとき、とても重要なキーワードがミシマ社のキャッチフレーズにある『ほがらか』という言葉なのだ。
◇インタビュー:竹林篤実/坂口健治 ◇構成:竹林篤実
◇フォトグラファー:大鶴剛志 ◇撮影協力:㈱オンボード
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FMO第13弾【株式会社ミシマ社】
2008.09.02
2008.08.26
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2008.08.12