奇跡を連発する出版社がある。年間8万冊、一日平均で200冊以上もの本が世に出る中、確実にスモールヒットさせているミシマ社だ。しかも同社は業界の常識を破り、取次を通さず本を流通させている。ミシマ社の一見型破りに見える逆転の発想を探る。
第3回
「百年続く出版社を作る」
■「年を越せない」実感
「年を越せないかもしれない、なんてドラマでよくいうじゃないですか。まさかそんなにっちもさっちもいかない状況に自分が追い込まれるなんて、まったく想定外でしたね」
自由が丘のワンルームマンションに事務所を構え、2006年10月にミシマ社を起こした三島氏は、直ちに温めていた企画を動かし始める。そして第一作、鳥越俊太郎氏としりあがり寿氏の共著になる『本当は知らなかった日本のこと』が同年12月に出版された。
「一冊出してみて、ビビりました。ほんとに百万単位でお金がぼんぼん飛んでいくのです。こんなの生まれて初めての経験です。印刷代、原稿代に最初は営業を外部に委託しましたからその経費もかかる。なけなしの貯金をはたいて工面した資本金があっという間に底を突いた」
本の流通には、独特のシステムがある。出版社が出した本は基本的に、いったんすべて取次に入る。その後、取次独自の判断に基づくパターンに応じて書店に配本される。
「このシステムがミシマ社には命取りになりかねなかった。取次経由の回収は7ヶ月も先になるんです。本は12月に出しているのに、初回配本の分が現金として入ってくるのは来年の7月です。ほんとにヤバい、お金が回らない。真っ青です」
▲最初のオフィスの風景
なぜ、出版業界には取次のようなシステムが残っているのだろうか。実はこのシステムは出版社にも、書店にもメリットをもたらすからだ。仮に取次がなければ出版社は、全国の書店と自らが取引をしなければならない。逆もまた真なりで、書店サイドでも山ほどある出版社といちいち注文?清算といった面倒なやり取りを行なわなければならない。ところが取次を通せば、出版社も書店も取引相手は、取次一社だけで済む。配送コストを考えても、経理面などの管理を考えても取次を通すメリットは極めて大きいのだ。だが、ミシマ社としては、目前に見えている資金ショートをいかに乗り切るかが最優先の課題である。
「せっかく立ち上げたからには、百年は続けるのが最低限の使命だと覚悟を決めていたんです。少なくとも出版社を名乗るなら、それぐらい続けて初めて一人前と思い込んでいましたから。何があっても潰すことはできない。どんな泥を飲んででも続ける覚悟でいました」
そこで三島氏は経営者として大きな決断を下す。営業マンを雇って直営業を展開することと、編集プロダクション業務を請け負ってキャッシュを回すことだ。
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FMO第13弾【株式会社ミシマ社】
2008.09.02
2008.08.26
2008.08.19
2008.08.12