奇跡を連発する出版社がある。年間8万冊、一日平均で200冊以上もの本が世に出る中、確実にスモールヒットさせているミシマ社だ。しかも同社は業界の常識を破り、取次を通さず本を流通させている。ミシマ社の一見型破りに見える逆転の発想を探る。
凄すぎる上司を見て敵わないと尻尾を巻くのではなく、逆にその人を目標に据えて追い越してやろうとがんばる。何かにとりつかれたかのように仕事に打ち込んだ三島氏は、2年目には安定した結果を出すようになった。
「ヒットが出ると周りの目が変わってきますよね。若くても、あいつの出す企画なら一応見ておかないと、と認めてもらえる。そうなると、どんどん仕事はやりやすくなるし、やっていて楽しいし、楽しめているからヒットも出るしと、ますます良い循環に入っていきました」
▲インタビュー風景(左から三島氏、竹林氏、坂口)
■ふいに消えた目標、そして挫折
編集者としてまさに順風満帆、確実に成長を続けていた三島氏に最初の転機が訪れる。
「編集の仕事って、こんなにおもしろいのかと突っ走っていた3年目のある日、尊敬する副編集長が突然辞めちゃったんです」
以前から違う道を模索していた彼女はおそらく、後継者が育ったことで一安心し、自分の夢を追いたくなったのだろう。しかし、残されるものにはショッキングな出来事である。
「この人に追い付き追い越せでがんばっていたわけです。目の前にはっきりと見えていた目標が急に消えてしまった。ぽっかりと穴が開いた状態ですよね。とはいえ、すでに目一杯で走っていたから止まることもできない」
指針を失った三島氏をさらなる衝撃が襲う。
「彼女は副編集長だったのですが、なんとその上にいた編集長までが辞めちゃった。そうなるといつしか編集以外での仕事の負担が多くなり始めました」
3年目に入ると部下も付いた。組織としては当然の判断であろう。頭角を現し始めた新人が順調に成長し、しかもそれまでのトップが空席となっているわけだ。マネジメントまでをいきなり任せることは無理だとしても、ヒットを期待するのは当たり前だし、新人育成もやらせてみたいと考えるのはごく自然な流れである。
「もちろん、後輩ができるというのはすごく励みになりました。けれど、部下が付くということは、会社の中でのポジションが上がり、会社の中での自分という存在が固まっていくことでもあります。けれど、僕自身の中には、出世願望みたいなものはまったくなかったんです。ですから、いくらなんでも、この年で、そういう風に収まってしまうのは早すぎるだろうと」
三島氏のモットーは『挑戦』である。編集者としても、以前から付き合いのある著者ではなく、あえてこれまで書いてもらったことのない作者にアタックして、ヒット企画を飛ばしてきた。枠に収まりきらない個性が、じわじわと締め付けにかかる環境に耐えられなくなるのは時間の問題だったのだ。
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FMO第13弾【株式会社ミシマ社】
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