投資、投資と言うけれど:株価のパラドクス

2026.07.23

経営・マネジメント

投資、投資と言うけれど:株価のパラドクス

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/現代の株式市場は、ただ株価がバブルとして株式市場への余剰資金流入で膨らんでいるだけでなく、企業分割所有権としての株式そのものの価値担保が脆弱で、馬券のような短期一発博打になってしまっており、それも、長期保有に耐えられる「投資」ではない。/

 投資を増やせば景気が上向く、なんていうのは、経済学の初歩的な誤解だ。一般の人々が株を買っても、そのカネは、その企業には入らないから。株を買えば、そのカネは、その株を売ったやつが持っていくだけ。もちろん、たいてい、その株を売って入ったカネで、そいつは別の株を買う。つまり、新たに株を買う人がいればいるほど、市場の株価平均は上がる。しかし、それは、株式市場への資金のインの積分を示しているだけで、そんな現金の総額は、この世のどこにも存在しておらず、上場企業の懐具合とも関係が無い。

 つまり、株価平均の額なんか、ほとんど無意味で、前日比で上がれば、株式市場に資金が流入している、ということを、下がれば、市場から資金が流出していることを意味するにすぎない。この意味で、市場で株を売却してカネを得ながら、別の株に買い換えなかった場合、平均株価は下がる。このとき、株を売った人は、そのカネを一般的な商品やサービスで消費するか、銀行に貯金するかする。つまり、平均株価が下がるほど、バブル化した株式市場からカネが世間に出回り、消費や貯金によって、企業は仕事が増え、銀行も企業に融資し、企業は事業を拡大するので、むしろ世間の景気は良くなる。

 もっとも、こうなると、そういう企業への期待が高まり、その企業の株が欲しいという人が増え、その企業の株価は上がり、資金は、一般市場から株式市場へ吸い上げられて、一般市場の通貨のダブつき、デフレ化が止められる。このように、株式市場と一般市場は、もともと「神の手」によって、バブル化とデフレ化と両天秤のスタビライザーになっている。これが、基本的な近代資本主義の経済構造。

 だが、資本主義も、20世紀後半から、大きく様変わりした。かつて資本主義は、まさしく経営資本への実投資で廻っていた。つまり、企業は、銀行の融資に頼らず、みずから株式(企業の分割所有権)を新規に株式市場に直接に売り出すことで、資金を直接調達し、こうして得た資金で、土地を購入し、工場を建設し、事業を始めた。一方、素材のような流動資産、人件費や営業費などのフローの費用は、銀行の融資で賄った。その融資の担保は、土地や工場などの汎用性を残す固定資産であり、それが企業価値だった。

 ところが、現代企業は、もとより大規模な土地や工場を必要とせず、株式で資金調達をしても、それをイノベーション技術やビジネスモデル確立、ブランドネームバリュー向上に費やしている。これでうまく新規技術やビジネスシステム、高価値ブランドが得られれば、それはたしかに、無形固定資産となり、企業(株式)価値を支えるものともなるだろう。だが、これは、やってみなければわからず、失敗すれば、すでに調達した資金も土地や工場として担保されておらず、開発費や人件費、営業費のフローで融かしてしまっており、企業価値は皆無。

 また、たとえ成功しても、イノベーション技術やビジネスモデル、ブランドネームバリューなど、閉じたパラダイムにすぎず、別の企業がより新しいスタイルを創造しようとチャレンジしてくることは必至。こうして、パラダイムが更新されたとき、これらは、一気に陳腐化し、やはりまったくの無価値となる。実際、算盤屋は電卓屋に、電卓屋は表計算ソフトに、表計算ソフトは電子経理システムに敗退した。真空管は半導体に、そしてICチップに破れたように、それもさらには素粒子なんとかみたいなものに更新されていくだろう。まして流行高級品や人気サービスなど、新しい、というだけで刺激的なのだから、先発は市場防衛をしようにも、大きなハンデを負わされ、遠からず敗退する可能性のほうが高い。

 これらの意味で、現代の株式市場は、ただ株価がバブルとして株式市場への余剰資金流入で膨らんでいるだけでなく、企業分割所有権としての株式そのものの価値担保が脆弱で、馬券のような短期一発博打になってしまっており、それも、長期保有に耐えられる「投資」ではない。まして、人口減がすでに確定的となってしまった日本において、いったいどこにどう新規事業が成り立ちうるのか。円の価値低下と並行して、若者たちに株を買わせようとしているが、それはまたぞろ死に際の団塊世代がクズ株をかれらに譲って売り抜けようとしている、一種の全日本的な計画倒産ではないのか。

 日本円の現金は価値が無くなる。しかし、株もダメ、ドルや金もダメ。じゃあ、将来に向けてどうすれば、と思うかもしれないが、答えは昔から変わらない。人に投資する余裕があるなら、自分に投資しろ。時代が変わり、景気が変わっても、残るのは、自分。健康と知性、そして、家族や友人。プライスレスなもの。

純丘曜彰(すみおかてるあき)大阪芸術大学教授(哲学)/美術博士(東京藝術大学)、東京大学卒(インター&文学部哲学科)、元ドイツマインツ大学客員教授(メディア学)、元東海大学総合経営学部准教授、元テレビ朝日報道局ブレーン。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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