「共創したい」のに──なぜビジネスは競争に戻ってしまうのか

2026.01.07

経営・マネジメント

「共創したい」のに──なぜビジネスは競争に戻ってしまうのか

松井 拓己
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)

私たちは、競争優位性が時間とともに縮小し、消えていく運命にあること、そして、共創優位性という「顧客と育つ」構造への土俵の移行が、成熟市場における必然であることを確認してきました。 「理屈は分かる。でも、実際には難しい」 実際、多くの企業が、「顧客と長期的な関係を築きたい」「伴走型のビジネスに転換したい」「価格競争から抜け出したい」と語ります。ところが現場に戻ると、値引き交渉、要望対応、短期KPIの議論に引き戻されてしまうのです。

逆に言えば、事前期待を可視化し、整え、進化できた瞬間、競争の構造から自然と離れることができます。

『事前期待』は、共創を再現可能にする設計図である

書籍『事前期待』は、顧客満足を高めるためのノウハウ本ではありません。共創という関係性を、再現可能なビジネス構造として実装するための設計書です。

なぜ努力が報われないのか、なぜ説明しても伝わらないのか、なぜ価格競争に戻ってしまうのか。その原因を、「期待の構造」という一段深いレイヤーで解き明かしています。共創は、感情論ではなく、設計と運用の問題なのです。

多くの企業は、新しい「打ち手」(サービス開発や提案)にばかり注目し、「どのような事前期待に応えるのか」という「価値の設計」を議論してきませんでした。『事前期待』は、この価値の設計図と、それを実現する打ち手の設計図をセットにして展開するための体系化された技術です。

顧客満足度(CS)やNPS(推奨意向)調査も、結果の評価ばかりで肝心な「事前期待」を聞いていないため、当たり前の結論しか得られず、現場で活用されないという問題に直面しています。事前期待を理解することは、共創優位をつくるための設計図そのものとなります。

競争をやめることは、諦めることではない

競争をやめるとは、市場から降りることではありません。それは、戦う場所を変えることです。

競争に勝つのではなく、競争が起きない関係性をつくる。他社と比べ合うのではなく、顧客の未来と並走する。

共創優位が成立した企業は、もはや比較される軸が消滅するため、価格勝負は起こらなくなります。比較の軸は「企業間の比較」から「誰と組むと未来を最大化できるか」という「企業×顧客」の組み合わせへと変化します。

その結果、企業はヒト・モノ・カネ・情報に次ぐ「期待」という無形資産を獲得します。期待をマネジメントできる企業は、顧客も、自社も、消耗しません。

そしてこの構造を手に入れた企業は、競争市場には存在しない、消耗ではない“積み上げ型の成長”を獲得し、静かに、しかし確実に加速し始めます。競争優位性が時間とともに優位性を減らすのに対し、共創優位性は時間とともに関係性が強化され、そのサービスでなければならない理由が強化されていくのです。

成熟市場の必然の進化を再現可能にする

競争から共創へ。それはスローガンでも、理想論でもありません。ビジネスの構造を変えれば、事業成果が変わるという話です。

そして、その構造転換の起点にあるのが「事前期待」です。共創優位への転換は、成熟市場で疲弊しないための必然の進化であり、競争の消耗戦を抜け出すためのOSのアップデートとなるでしょう。

成熟市場がいずれ乗り越えなければならない未来への進化は、それを設計し、再現可能にした企業こそが実現するのです。

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松井 拓己

サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)

サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。              【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新

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