競争優位性の土俵では、新しい機能やキャンペーンはすぐに他社に模倣され、時間とともにその差は縮まり(優位性が時間と共に減る)、企業は息切れしがちです。 これに対し、共創優位性の土俵では、顧客との共創経験が積み上がり、新たな事前期待が立ち上がり、価値が進化していくため、時間が経てば経つほど、そのサービスでなければならない理由が強化されていきます。
構造的転換点:「適応」から「進化」へ──事前期待の科学
競争の土俵では、企業は顧客の要望やニーズに「適応」しようとします。不具合が発生すれば早急に駆けつけ修復するなど、顧客の要望に丁寧に応える努力をします。しかし、顧客の要望に応えるだけの「適応」では、事前期待そのものが進化しないため、顧客はいつまでも同じ事前期待を抱き続けます。結果として、顧客に価値の実感が薄れていく恐れがあり、顧客を他社に奪われるリスクが高まります。
これに対し、共創優位性においては、「事前期待の進化」が欠かせません。価値共創とは、単に顧客と協働することではなく、「事前期待を創造する」ことにほかなりません。サービス利用の経験を通して、顧客の漠然とした目的が明確になったり、当初の目標が達成された後、さらに次の目標が見えてくるなど、経験を通して新たな事前期待が立ち上がるプロセスを設計します。
例えば、フィットネスサービスにおいて、入会時には「健康維持のために運動習慣をつけたい」という期待だった顧客が、利用を続ける中で「仲間と楽しみたい」「大会に挑戦したい」という進化期待を抱くようになることで、継続率が劇的に向上するのがその一例です。
共創優位を築く企業は、顧客の要望を待つ「適応」のスタンスから、顧客の事前期待を進化させられる「共創」のスタンスへと自ら目線を変える必要があるのです。
構造的転換点:機能サポートから「行動変容サポート」へ
価値共創の最終的な到達点は、単にサービスやモノの機能を提供することを超え、顧客の意識や行動そのものを変容させることにあります。
たとえばサービスビジネスにおいて、サービス向上の方向性は二つあります。一つは、装置やシステムの「機能発揮をサポート」すること。もう一つは、顧客の「行動をサポート」することです。分析によると、顧客の行動のサポートに取り組んでいる企業の方が、サービス化によって業績が向上する傾向が見られます。ただし、行動変容のサポート(建物の2階部分)は、機能発揮のサポート(1階部分)がうまくできていなければ成立しません。
共創優位とは、顧客がサービスを使いこなせるようにするオンボーディング(機能サポート)だけでなく、顧客の意識や行動変容をサポートするサービスモデル(2階建ての構造)を構築することで、顧客の未来の成功に貢献し、離れがたい関係性をつくることにあります。
共創優位性は「時間を味方につける」
新刊『事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~』
| 提供会社: | サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング) |
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2015.07.10
2009.02.10
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)
サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新
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