どんな組織にも、成果を圧倒的に引き上げる“キーパーソン”が存在します。営業であればトップセールス、店舗であれば現場を掌握する店長、企画であれば次々とアイデアを生み出すプランナー。そして多くの組織で起こる現実は、「その人が辞めた途端に、数字が落ちる。」「組織の質が下がる。」「顧客満足度が揺らぐ。」 人が辞めても続く仕組みを求めているはずなのに、現場はいつも“特定の誰か”に依存してしまう。なぜこの依存はなくならないのか。そして、どうすれば組織は「優秀な人の退職に揺らがない」状態になれるのか。その鍵となるのが、再現性です。
優秀な人材の多くは、“直感的ARISE”で動いている
面白いのは、優秀な人の多くはARISEを知らなくても、直感的にARISE的な振る舞いをしている点です。
・相手が何を求めているか空気で察する
・必要以上に説明しない、でも不足もしない
・相手の不安を自然に解消する
・最後に価値を再確認してもらう
これは“天性のセンス”ではなく、“圧倒的な現場経験で編み出された事前期待設計”です。つまり優秀な人は、事前期待を正しく扱う構造を無意識に実行しているのです。だからこそ、周囲は真似できない。だから組織は依存してしまう。ここで再現性のフレームが必要になります。
再現性が生まれると、組織の戦略が一段階強くなる
再現性が高まると、組織の強さは「人の質」ではなく「構造の質」で決まるようになります。これは戦略において決定的な意味を持ちます。
・採用の幅が広がるから、優秀な人だけを採用しなくても戦える。
・育成速度が上がるから、本質的な因果に触れるため、学習曲線が短縮される。
・顧客体験が均質化するから、誰に当たっても品質が同じになる。
・意思決定が早くなるから、価値の構造が共有されているため迷わない。
・組織が“揺らがなく”なるから、退職者が出ても、水面は波立たない。
これらすべてが、戦略における“優位性”そのものです。
優位性は「戦略」より先に、「再現性」から生まれる
多くの企業が戦略から入ろうとします。しかし、戦略は構造として再現できなければ意味がありません。「うちの戦略は〇〇です」と言っても、それを実行する現場が事前期待を揃え、価値を理解し、プロセスを統合し、顧客の認識を引き上げ、価値を定着させられるかどうか。ここが曖昧なままでは、どれだけ優れた戦略を描いても再現されない。
つまり、戦略の実行力を支えている土台が“再現性”である。
だからこそ、優位性は戦略の前にある。再現性が高い組織は、戦略の質そのものが高くなる。戦略が良くても、再現性が低ければ成果は出ない。戦略が普通でも、再現性が高ければ成果は出る。ビジネスの本質はここにあります。
優秀な人の退職で揺らがなくなる組織へ
組織が依存を脱するためには、優秀な人がやっていることをそのままコピーするのではなく、彼らの行動の“理由”を抽出し、構造として共有することが必要です。再現性が生まれれば、組織の強さは「誰がいるか」ではなく「どう動けるか」で決まるようになります。そして、優秀な人が辞めても、成果は落ちない。むしろ、構造が強くなることで、組織は長期的に成長を続けます。
次回は、これらすべてを統合しながら、なぜ再現性は“個人の成長曲線”を劇的に変えるのかを解説します。
第5回予告:成長は“偶然の成功”ではなく“構造化された挑戦”によって生まれる
最終回では、人が長期的に伸びるために必要な「経験 → 挑戦 → 失敗 → 学び」という成長曲線と、再現性がどう関わるかを深掘りします。
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2015.07.10
2009.02.10
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)
サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新
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