AI技術の覇権をめぐる米中間の競争は、その開発に対する政策面でのガバナンスの違いによって新たな局面を迎えている。
また、AI技術の進展速度に対し、連邦議会における包括的な規制の策定が遅延していることも問題である。この規制の空白は、州レベルでの規制の乱立を引き起こし、企業が長期にわたる巨額の資本投下をする上での予見性を著しく低下させている。
生成AIの開発には、長期にわたる巨額の資本投下と予見可能で安定した規制環境が不可欠だ。政策の不安定さや恣意性は、研究開発計画やサプライチェーンに大きなリスクを与え、投資をためらわせる要因となり得る。
日本におけるAI開発投資への示唆
こうした米中が直面する力学は、日本に対し明確な示唆を与える。
- 「自由」と「安定」の確保: 日本は、中国のような強力な検閲を行わず、米国のような極端な政策不安定性を避けることで、生成AI開発における優位性を作ることができる。民主的かつ予見性の高い安定したルールメイキングと運用が、国内企業や海外からの研究投資を呼び込む鍵となる(EUはより強い規制ルールを打ち出して域外にも影響を与えようとする傾向にあるが、ベースとなる狙いは共通するはずだ)。
- データ流通の推進: 企業主導のデータ利用と中国のような「国家統制」の間のバランスを取りながら、セキュリティとプライバシーを確保した上で、企業間でのデータ連携や流通を促すガバナンス構築が、イノベーションの土台となる(EUも近い発想を持つと考えられる)。
付け加えるなら、巨額の投資資金を融通できる米中と同じ土俵(汎用大規模モデルの巨大化競争)で戦うことは国力と資本力から見て不利であるため、次の戦略も同時に検討すべきである。
- ニッチ・特化型への投資: 米中が汎用大規模モデル(LLM)の「巨大化競争」に注力する中、日本は日本語や特定の産業(コンテンツやハイテク素材など日本の強みが生きる産業を中心に)・文化に特化したスモール・高精度モデルや、安心・安全を保証するガバナンス技術など「信頼性」を付加価値とするニッチな分野に集中的に投資することで、独自の優位性を発揮すべきである。
【結び】
生成AI時代の覇権は、技術力だけでなく、いかにイノベーションを阻害しない「賢明で安定したガバナンス」を構築できるかにかかっている。日本は、米中の課題を教訓とし、独自の「信頼のガバナンス」を確立することで、存在感を示すことができるはずである。
経営・事業戦略
2025.03.05
2025.04.23
2025.05.15
2025.06.04
2025.08.18
2025.09.17
2025.09.24
2025.10.20
2025.11.12
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅第二創業期の中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』を主宰。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
フォローして日沖 博道の新着記事を受け取る