戦略プロジェクトにおいて「仮説検証」が組織全体の標準的な実践(プラクティス)として定着したとき、プロジェクト現場での最適化に加え、組織の意思決定の質と学習が着実に進化していることに気づくだろう。
本シリーズ第4弾の記事では、「戦略仮説の検証の必要性と効能」は「戦略仮説の信頼性を高める」ことと、「仮説が間違っている場合の被害を最小限に食い止める」ことの2つに大きくまとめることができると結論づけた。
これらは個々の戦略プロジェクトにおいて戦略仮説を検証することで得られる効能であり、そうした重要な要素を失わないために検証が必要なのだという趣旨である。
では(個々のプロジェクトでの話ではなく)組織として「戦略プロジェクトにおいては戦略仮説を検証するのが当たり前」というふうに実践が定着するまでに進化すると、何がどう変わるのか。それを整理してみよう。
- 戦略プロジェクトの現場
まず戦略プロジェクトの策定・推進の実践において幾つもの進化が生まれる。我々が長年付き合ってきたクライアント側の変化や、弊社側の担当者の成長として実感している。端的なものを挙げると、次の通りである。
1)イシュー全体を構造的に考え、抜け漏れが少なくなる
戦略仮説の検証を前提とすることで、考えるべき論点(イシュー)が自然と網羅的になる(ツリー構造で考える)。仮説を立てる→検証する→結果に応じて修正→次の仮説を立てる、というプロセスを繰り返す中で、プロジェクトチームは全体像を漏れなく、論理的なつながりをもって捉えようとするようになる。
2)課題仮説の検討がより「多面的」に「深掘り」され、「すぐに検証」となる
仮説検証の習慣化により、一つの課題に関する要因を、一つの側面からだけでなく、市場・競合・顧客・自社リソースなど、多面的な視点から検討するようになる。
また、思いついた打ち手を裏返した安易な課題仮説ではなく、要因を構造的に捉えて深掘りされた本質的な課題仮説を立てるようになる。
そしてその検証をプロジェクト後半に先送りすることなく、迅速かつ低コストで検証するためのアプローチを常に考えるようになる。
3)打ち手仮説の初期抽出数が格段に増え、有力な方策には複数版が常に用意される
仮説検証は、最善策を一つ見つけ出すことだけでなく、「仮説は仮説。間違っているかも知れない」という視点を持つことでもある。そのため、プロジェクトの初期段階では、本命的な打ち手を思いつくことで満足することなく、「こんなのあり得ないかも知れないけどさ」というのも含め、多数の代替案を積極的に抽出するようになる。
絞りに絞られた有力な打ち手仮説についても、一部分や条件が異なる複数のバージョン(複数版)を用意しておくことが習慣化する。
経営・事業戦略
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅第二創業期の中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』を主宰。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
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