戦略プロジェクトにおいて「仮説検証」が組織全体の標準的な実践(プラクティス)として定着したとき、プロジェクト現場での最適化に加え、組織の意思決定の質と学習が着実に進化していることに気づくだろう。
つまり、「どれだけ深く考え、どれだけ色んな観点で妥当性を検討したか」が承認の重要な判断基準となるのである。これにより、戦略プロジェクトの品質そのものに対する組織の要求と対応の水準が着実に向上する。
2)事前に報告資料を共有するようになり、会議での「開けてビックリ玉手箱」が稀有になる
承認者が結論に至るまでの詳細なロジックや検証データを確認したいと考えるようになる一方で、質疑応答の時間を確保する目的で報告者は会議の場での説明時間を節約するよう求められるため、報告資料を事前に共有する習慣が生まれる。
その結果、会議の場では初めて資料を見て「なんだこれは」と戸惑うといった(弊社が関与するプロジェクトで禁止している「開けてビックリ玉手箱」の)状況がなくなり、建設的な議論に集中できるようになる。これは情報共有と透明性の向上という組織文化の変化を促す。
3)報告会議の場においては、本質的な質問・指摘が主を占めるようになる
事前に検証済みのデータやロジックが共有されていることで、承認者は表面的な事実確認や思いつきの指摘ではなく、プロジェクトの持つ根本的な戦略性や検証の網羅性・妥当性といった本質的な論点に時間を割くようになる。
これにより、報告・承認会議は「詰問の場」から「意思決定と戦略洗練の場」へと質的に変化し、議論の生産性が飛躍的に向上する。
4)検証をきちんとしたプロジェクトが好意的に扱われ、そのプラクティス(実践)が他のプロジェクトや事業部門にまで波及する
適切な検証に基づいて提示された提案は、その実現可能性や成功確率が高いと判断されやすくなる。その結果、そうしたプロジェクトや部門には投資が優先的に配分され、承認がスムーズに進むという成功体験が組織内で共有される。
この成功体験は強力な模倣のインセンティブとなり、「検証をしっかりやることが成功の近道である」という認識が広がり、組織全体のベストプラクティスとして自然に浸透していく。
5)事後検証が定着することで、組織的に学習し次に活かすことができる
事後検証が当たり前になることで、「プロジェクトが成功した理由」「失敗した理由」が客観的なデータとして残るようになる。
これにより、単なる個人の反省に留まらず、その知見を組織の共通言語・共通財産として蓄積し、次に活かすための仕組み(ナレッジマネジメント)が機能し始める。仮説の構築―事前検証―実行―事後検証のサイクルが回ることは、組織全体として戦略策定・実行のスキルを高めていく、動的な学習能力の獲得に他ならない。
経営・事業戦略
2025.04.23
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅第二創業期の中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』を主宰。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
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