/大学を、日本の音楽シーンを良くする気概はないのか、という山口氏の言い分もわからないではないが、もともと大阪音大は、音楽を通じて良識、感性、信頼を培う、という穏やかな教養主義で、卒業生をギラギラした業界人として活躍させようなんていう話は、最初から大学の伝統と気風に対する調和とレスペクトを欠いた独奏だったのではないか。/
聞き及ぶ限り、大阪音大の新しいミュージックビジネス専攻のディプロマポリシーの策定は、山口哲一氏を中心に進められ、彼が個人的な人脈を駆使して実務家教員を集めた。また、尚美からは岡本氏のほか、西川典彦氏や脇田敬氏らを引き抜いた。しかし、山口哲一氏はあくまで特任教授で、彼が集めた数多くの人材も、多くが客員教授止まり。専攻長となる岡本氏はともかく、脇田氏も専任とはいえ、あくまで嘱託教授。つまり、非常勤だらけで、まともに人事が固まっていない(大学が当初から彼らの教員としての実績と資質に疑念を持っている)のがわかる。
2022年4月、めでたく開講。教員は21名、一期生は46名で、ただでさえどこも定員割れだらけの、この時代の音大としては大成功。だが、半年と置かず、グダグダに。そして、年末、特任教授の山口哲一氏と嘱託専任教授の脇田敬氏の当年度での契約終了が理事長と学長名で郵送で通達された。これに続いて山口氏に共感する客員教授など12人も離任。大学側は、新規に12名を補充して、すぐに23年度を迎えることになる。
もともと山口氏が岡本氏を紹介し、専攻の骨格を作ったとはいえ、しょせんは外様の非常勤。山口氏からすれば、オレが作った学科だ、という自負もあろうが、だれが作ろうと執行運営は専攻長(教育主任)の岡本氏を中心として行われるべきもの。そのバトンタッチがなされず、言ってみれば、家はもうできたのに、建築家がそこに居座って、家の中を仕切っているような状況。しょせんあくまで恩義に報いるためだけの名誉職なのに、それを勘違いして分を弁えなければ、力尽くでもお引き取り願わなければならない、ということになるのも当然。
もちろん、大学を、日本の音楽シーンを良くする気概はないのか!という山口氏の言い分もわからないではない。しかし、大阪音大が同学科だけで成り立っているわけでなし、学長や理事長として抜擢されたわけでなし、半身を中に突っ込みながら、大学よりも公益を!と叫び、岡本氏や西川氏には教授たる実績などない!とまで言われたら、大学としても、学科としても、そりゃたまらんだろうと思う。(開講後も山口氏を学科に残したこと、また、それを越える人望のある者を学科の中心に据えられなかったことが、大学人事のの致命的な失敗ではあろうが。)
もともと大阪音大は、卒業生を業界人として活躍させようなんていう尖った実務主義的な校風ではなく、音楽を通じて良識、感性、信頼を培う、という穏やかな教養主義だ。そういう教養主義の伝統をふまえたうえで、もっと広く、お嬢ちゃま、お坊ちゃまの長年の音楽教養が生かせるビジネスも切り拓こう、というのが、大学側の学科に対する期待だったのだろうが、あまりに方向性が違いすぎた。まあ、山口氏にしても、もとより大学人ではなく、学校人ですらないので、現在の高校事情、とくに音楽での大学進学希望者の現実を知らなすぎたのだろう。
解説
2022.10.16
2022.12.22
2023.01.12
2023.01.22
2023.03.31
2023.04.12
2023.06.03
2023.06.22
2023.09.01
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。