/大学を、日本の音楽シーンを良くする気概はないのか、という山口氏の言い分もわからないではないが、もともと大阪音大は、音楽を通じて良識、感性、信頼を培う、という穏やかな教養主義で、卒業生をギラギラした業界人として活躍させようなんていう話は、最初から大学の伝統と気風に対する調和とレスペクトを欠いた独奏だったのではないか。/
いずれにせよ、あれだけの豪華な実務家教授陣を揃えれば、そりゃ学生も集まる。だが、実務家教授たちは、学外の方が本業。もとより大学に理解や忠誠があるわけでなく、いつものように非常勤を喰い詰めた下請けのように遇うやり方を押し通せば、こうなる。そして、山口氏が懸念するように、そのツケは学生たちに回る。23年度にしても、目当ての教授が去ったとなると、ただでさえ音大は学費が高く、クラシックの演奏分野と違って、音楽プロデュースはもとより中退上等、学歴不問の分野なのだから、教員でさえこんなにあっさり辞めてしまうのに、さて、学生がいつまでどれだけ残るか。
山口氏が言うように、たしかに大学の現状は問題だ。大学というもの、とくに芸術系の大学というものが、どれだけ時代に応じた才能を開花させるのに貢献しているか、その支援のために最適化する改革や人選が行われているか、というと、だれがどうみても、かならずしもうまくいっているとは思えまい。だが、それは、だれかが怠惰だから、情熱がないから、などという簡単な話ではない。なまじ大学が歴史的な存在になり、ステークホルダーが絡み合い、調整コストがでかすぎ、だれもなにもできないのだ。
いっそ、新規に自分で、大学でも、専門学校でも、高邁な理念を掲げて、作ってみたらいい。こんな状況のままなんて、なんて大学人はみなバカでマヌケばかりなんだ!と思って、この三十年来、あちこちに大学院大学だの、専門職大学だのの構想創設をぶちあげる大学外の野心家は多くいた。そして、それらは、なんでも認可され、かなり自由になんでもできたが、その大半は、数年さえ、もたなかった。いま残っているところも、内情はすっかすかで、教員や学生を集めるにも青息吐息。卒業まで残らせるのも四苦八苦。まして、就職なんて、あまりに実体が無い。
しかし、それは、大学の新学科も同じ。マクロ経済学や生化学などと違って、そもそも新学科というほどの国際標準教育カリキュラムが確立しておらず、烏合の衆として集められた実務家諸先生の手持ちネタで、お茶を濁すのがせいいっぱい。そして、社会経験を積んだ海外の30歳近い大学生ならともかく、いまの日本の高校生がそんなプロフェッショナルな水準について行けるのかどうか。
この一件は、芸術系に限らず、大学というものを若者促成の実務主義に徹するのか、それとも中高年までをマーケットに含めた教養主義を採るのかの分かれ道。どちらの道も、鍵は、教員人材集めと、それを引き留められる学科長や学長、そして大学の人望にかかっている。なんにしても、ケンカはやめなよ。学生たちの前で大学人がやることじゃないよ。落ち着いて、話し合って、それぞれが信じる別々の道を行くだけじゃないのかな。
解説
2022.10.16
2022.12.22
2023.01.12
2023.01.22
2023.03.31
2023.04.12
2023.06.03
2023.06.22
2023.09.01
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。