市場参入企業の多くは事業目的の目線を「在り方」に向けるのではなく、「シェア数値の獲得」や「技術の差異化」といった相対的競争に向けます。すなわち既存の枠組みの中で「優秀者」を目指そうとするのです。しかし、常にレッドオーシャン上に船を浮かべねばなりませんし、コモデティ化の流れにもさらされます。VUCAの時代の事業目的の目線をどこに置くべきかを考えます。
アップルの目的目線が「在り方」次元にあるとはいえ、彼らが「技術」を軽視したわけではありません。日本メーカー以上にこだわりは強かったでしょう。しかし彼らの目線はあくまで携帯情報端末機が実現する新しいライフスタイルの創造にあり、その高さの目線においては、日本メーカーが目的とする「薄さを何ミリにして他社製品に勝つ」とか「コストを何%下げて業界シェア何位を保持する」といった外形的な数値目標は手段に置かれることになります。
2011年の携帯情報端末機の市場から私たちは何を引き出すことができるでしょうか。それはみずからの製品・サービス・事業に新しい概念の光を当てて、目的を「在り方」の次元に上げよということです。
モノやサービスが「form/処し方」すなわち具体次元でコモデティ化する中、そこから抜け出す道は同じ次元で相対的競争を繰り返すことではありません。事業の概念を変え、新しい次元で独自の世界を起こすことです。
実際、そのように目的の目線を上げて、みずからの存在を「essence/在り方」という抽象次元にシフトする動きが広がっています。
「シェア獲得」から「どんな存在でありたいか」へ脱皮する企業
例えば、リクルートはかつて単なる営業力一本槍で突き進む人材紹介会社でした。業界で圧倒的シェアNo.1を固持するという数値目標が事業の目的としてあり、それが良くも悪くも同社のアイデンティティを形成していました。それがいまでは事業の目的目線を上げて、「マッチング」の事業を行う存在へと生まれ変わりつつあります。
つまり、同社は「まだ、ここにない、出会い。」というミッションフレーズを掲げ、一方に個人を束ね、もう一方に企業を束ね、個人と企業をつなぐ支援をすることに事業概念の転換を行ったのです。その目的のもとでは、人材紹介事業(「リクナビ」「リクルート・エージェント」など)や、理容店・飲食店支援事業(「ホットペッパー」など)は手段になります。
また福武書店は、かつては学生向け通信教育『進研ゼミ』で市場シェア1位を狙い、維持することを目的にする会社でした。1970~80年代、この市場で先行し君臨していたのは『科学』と『学習』という強力な商品を展開していた学習研究社(現、学研ホールディングス)でしたから、後発の福武書店は何としても規模を拡大し、市場の覇権を取りたかったのです。そして「赤ペン先生」の添削指導サービスを武器に躍進し、その後業界最大手に上りつめることができました。
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2009.02.10
2015.01.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。