市場参入企業の多くは事業目的の目線を「在り方」に向けるのではなく、「シェア数値の獲得」や「技術の差異化」といった相対的競争に向けます。すなわち既存の枠組みの中で「優秀者」を目指そうとするのです。しかし、常にレッドオーシャン上に船を浮かべねばなりませんし、コモデティ化の流れにもさらされます。VUCAの時代の事業目的の目線をどこに置くべきかを考えます。
そこで同社は目的目線を上げます。「人がよりよく生きるための支援サービス会社になりたい」と。そしてラテン語の「bene(よく)+esse(生きる)」を組み合わせ、ベネッセコーポレーションとして生まれ変わるわけです。いまではその目的のもとに、通信教育事業はじめ、育児支援事業や介護施設事業を手段として手がけています。
タニタも「シェア獲得」次元から「在り方」次元へと事業概念をシフトした企業の1つと言っていいでしょう。同社は長らく、ヘルスメーター(体重計)の製造で他社と機能やシェアを争い、市場トップシェアを目的とする会社でした。しかし近年はそのフェーズを越え、みずからの事業のとらえ方を「単なるハードウエアメーカー」から「“はかる”を通して人びとの健康をつくる会社」へと変えていったのです。
タニタは「在り方」の次元で目的を持ったことにより、健康器具のデジタル化をどうするか、「タニタ食堂」などの食品・食堂事業をどうするかが、1つの基軸のもとで力強く一貫して行える企業になりました。
日本人は内に高度な抽象概念を広げ、外に作法や造形として表す力を持っている
私たちの事業現場では常に事業継続、組織存続のプレッシャーがかかっており、「数字を出せ」「利益を確保しろ」「シェアを上げろ」の声が飛び交います。そして目に見えやすい外形的なところで他社との差異化を図ろうと、そこに注力します。するといつしか、これらの数値目標がノルマとなり、目的化します。その状態が下図の組織Aです。
組織Aは目的が利益や技術といった具体次元にあります。つまりその次元では、自己を物質的に維持・拡大することに意識が向けられ、処し方をどうするかがもっぱらの関心事になります。
他方、組織Bは目的が概念や意味といった抽象次元にあります。その次元では、自己を存在的に開発することに意識が向けられ、在り方をどうするかが核心のテーマになります。これらを考えるためには、意味や在り方を探り、概念を起こしていく「コンセプチュアル思考」の力が必要になってきます。
企業は利益獲得のための装置であるというような機械論な組織観を持つことや、量的・覇権的なものを事業目的に据えるのは、たやすいことです。「多く売って稼ぐ事業を目指す」というのは事業コンセプトとしては、いかにも芸がなく厚みがありません。コンセプチュアル思考の観点からすれば、ほとんど思考停止状態といってもいいでしょう。
関連記事
2009.02.10
2015.01.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。