近未来にAIが普及すること自体はほぼ自明だ。しかしその影響にはそもそも誤解が少なくない。実態がよく知られていないがゆえに過大視されがちな側面もあるが、意外と無視されている側面もある。AI利用による新サービス/製品の企画・開発をお手伝いする機会が以前から多い弊社としては、こうした点が妙に気になってしまう。
しかし少なくともデータ絡みのアシスタント的な業務はコンピュータで代替され、そうした業務ばかりで成り立っている仕事はなくなることは目に見えている。すると会計事務所のアシスタントや弁護士事務所のアシスタント(パラリーガル)の多くは失業する可能性が高いということは予見できる。でもアシスタントを経由せずとも会計士や弁護士にはなれるので、そうした職業を目指す人たちがパニックになる必要はない。
3.AIアシスタントがもたらす隠れたメリット
一方、彼らを使って仕事をしている会計士や弁護士はどう変わるのだろう。彼らも「淘汰」されるのだろうか。
その主要業務は顧客(クライアント)獲得・維持であり、相談を受けて調査判断しクライアントにアドバイスすることである。人間のアシスタントの代わりにAIコンピュータというツールを使って調べ物をするという具合に業務スタイルは若干変わるが、主要業務部分はあまり変わらないだろうと予想される。コンサルタントも同様だろう。
むしろ、AIコンピュータがアシスタント業務を果たせるようになると、こうした士(サムライ)業には共通して「ベテランの賞味期限が延びる」という副次効果が見込めそうだ。
高齢の会計士や弁護士、もしくはコンサルタントが不本意ながら引退を余儀なくされる最も大きな要因の一つが記憶力の減退だ。クライアントの面前や法廷といった場で肝心な用語や条文、もしくは相手の名前などが言葉として出てこない、もしくはあやふやな記憶に頼ったら間違ってしまうといった「みっともない場面」を繰り返すと、一挙に自分の執行能力に自信がなくなって自ら引退を決断せざるを得ないのだ。
しかしそうした微妙な場面でも補聴器につながったAIアシスタントに(まるで独り言のように)小声で「あの○○の関連の条文は何だった?」と確認すれば(ただしAIアシスタントにだけ分かる符丁で尋ねる必要はあろうが)、たちどころにAIアシスタントが正しい答をその場で教えてくれるという訳だ。ちょっとコミカルなシチュエーションだが、決してSFコメディの話ではなく現実解になる日は遠くないだろう。そしてこれは士業に限った話ではない。
え?「人間のアシスタントが隣にいれば今でもできるのではないか」と?その疑問は人間心理を分かっていない。
自分の圧倒的年下の(かつ家族でもない)部下やアシスタントに、自分の記憶力の減退をもろにさらけだせる高齢者の職業人は少数派だ。
経営・事業戦略
2019.11.27
2019.12.31
2020.07.15
2020.09.23
2021.04.20
2021.12.16
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2023.04.12
2023.07.19
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』の運営事務局も務めています。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
