コロナクライシスの緊急事態のニーズに応え、多くの会社が急遽ピボット(方向転換)を行っている。平時には腰の重い企業が、緊急時になるとまるで生まれ変わったように俊敏に「イノベーション」できるのはなぜだろう。緊急時の在り方から学び、平時にも応用できる教訓がありそうだ。
発端は2020年3月19日(木)、メイヨー・クリニック(Mayo Clinic)からの問い合わせの電話だった。防護用品が不足している、どうにかならないか、という内容だった。その日の午後、数人のデザイナーとプロトタイパー(プロトタイプ製作の専門技術者)が集まり、プロジェクト・アポロが発足した。
翌3月20日(金)には地元デトロイトの医療関係者の協力を得てデザインの検討が始まった。そして3月21日(土)、ウィスコンシン大学開発のオープン・ソース・デザインの起用が決定、資材の調達先が決まり、製造所が確保され、プロトタイプの作製がスタートした。
3月22日(日)、フォーム、プラスチック、ゴムなどの資材が製造所に納品され、医療関係者による試用が開始。3月23日(月)、フォードの法務と米食品医薬品局の認可を受け、3月24日(火)には完成品が全米各地の医療施設へ配達され始めたのである。
この偉業の影には、フォードという会社組織内外の部門部署や役職の垣根を超えたコラボレーションがあった。会社役員自らが夜遅く製造機器を製造所に搬送したり、製造現場のプロが自らのテクニックやデザイン改良のアイデアを伝授したり、そして、自ら手を上げ製造所に出頭した300人の組合作業員の協力があったのだ。
こんなことは、シリコンバレーのテクノロジー企業では日常茶飯事に行われている、という人がいるかもしれない。また、フェイス・シールドは比較的単純な製品で、何百もの部品を必要とする自動車の製造とは比べ物にならない、という人もいるかもしれない。
だが、フォードが自動車業界の未来を背負うメーカーとして生き残るには、このレベルのスピード感が必要だ。それには、会社組織内のサイロを取り除くことと、イノベーションに関して、経営陣や投資家の理解や、サプライ・チェーン・パートナーの協力を得ることが必要なのだ。
危機的状況下から学ぶ教訓が、平常時のビジネスに活かされることが必要だということである。そしてここでは、フォードという大企業の事例を取り上げたが、同じようなことは、業界や業種を問わず、小・中堅規模企業についても言える。非常時を生き残り、平常時に大きく飛躍するイノベーションをコンスタントに遂行していくためには、1)長期的視野と、2)部門・部署、社内外の垣根を超えたコラボレーション、そして、3)全ステークホルダーによるビジョンの共有が必要なのである。
革新
2012.01.26
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ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。