サービス提供者に犠牲を強いる「おもてなし」というブラック労働の素

2020.01.31

組織・人材

サービス提供者に犠牲を強いる「おもてなし」というブラック労働の素

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

新型肺炎が猛威を振るう中でも接客しなければならないサービス業界。ドタキャンどころか無断キャンで何十万もの損害を出す宿泊業界。マスクしたり、違約金や前払いなど、「お客様に迷惑」をかけるのは気が引けるとのこと。東京オリンピック誘致で世界に宣伝した「おもてなし」の心はブラック労働につながっていないでしょうか。

でも、そうなんですか?それで良いのでしょうか?「おもてなし」って、サービス提供者の犠牲で実現できるものなのですか?だっておカネ関係無しに実現出来るのが日本のサービスレベルなんでしょ?

外国だってバカ高い料金払えば、隅の隅まで行き届いたサービスはいくらでも受けられますよ。かつて会社の出張で超高級ホテルに泊まった時、空港までリムジン(注:バスではなく、バカ長いリンカーンのリムジン)で送ってくれたり、コンシェルジェが代わりにレストラン取ってくれたりしました。

そうした手厚いサービスを、料金に繁栄させず、心意気で提供するから日本のサービスレベルは高く、その「素」となるのがおもてなし精神なのでしょう。

それってブラック労働そのものではないのですか?気合いや精神力で仕事をせよというブラック企業の姿勢そのものこそ、「お・も・て・な・し」なのでではないかと、クリステルさんのスピーチを見た時から感じていました。

金払わなければ客ではない

「お客様は神様」の真の意味として、クレーマーを増長させる意図ではないという、三波春夫さんの真意を初めて解説した拙著「謝罪の作法 (ディスカヴァー21)」では、「お客様はお客様」というサービスの基本を説きました。払った料金に相当するサービスを受けられるから、お客様だけでなく提供側も等しく利益を共有できます。

「おカネはもらわなくともサービスだけを提供したい」と、経営者が望むのは自由ですが、従業員に無償奉仕や低賃金なのに高度なサービスを強要したり、そう洗脳することでブラック労働は生まれます。「お客様はお客様”」、つまり払っていただいた料金と相応のサービス提供こそ理にかなうコストシェアです。適切なコストシェアによって、ブラックな労働やブラックな職場を防ぐことにつながります。

かつて医療業界で仕事をしていた際、医療業界ヒエラルキーの頂点に君臨する医師には、業界全体で「先生様」扱いが常識でした。しかし営業責任者として未払い金数百万円の回収をした際は、「先生」とは呼ばずに「代金をいただかなければお客じゃないですよ○○さん」とこの時とばかりにウサ晴らしできました。

従業員への犠牲を強いることによる「お客様第一主義」や「おもてなし」、それによってブラック労働を忌避する従業員が集まらない、人手不足は、企業の自己責任なのではないでしょうか。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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