父娘で繰り広げた委任状争奪戦から約3年半。久美子社長の「アンチフォーカス戦略」が大塚家具にもたらしたのは業績悪化と急速な資金繰りの悪化である。今回の矢継ぎ早の提携策には派手さはあっても根本的な経営立て直しにはつながらない。打つべき手は他にある。
このことについては以前、当コラム記事で2度ほど採り上げ、この戦略方向性の間違いを指摘したことがある(でも同窓ゆえに心情的には頑張って欲しいという複雑な思いも同時に吐露した)。
その戦略の行く末は小生が予想した通り非常に厳しい結果で、残念ながら同社はこの数年、業績悪化の道を突き進んできたようだ。この結果が示すのは第一に、久美子社長が狙った中級価格帯はもはや「ボリュームゾーン」ではなく、むしろ2極化する市場における縮小セグメントだということだ(図2参照)。そして第二に、久美子社長の戦略方針を嫌った富裕層既存客の多くが大塚家具から離反してしまった可能性が高いということだ。
注)なお、この中級価格帯で健闘している企業(ワイス・ワイスなど)も存在しているが、大塚家具にそうしたきめ細かな適応戦略は見当たらない。
よく経済評論家やコメンテータがやるような「ほーら私が言った通りでしょ」という自慢をするつもりは小生にはまったくない。ただ、「どうして軌道修正してくれなかったのか」と残念至極だ。そしてやはり残念だが同時に、この戦略的誤りの責任をとって久美子氏は社長を退くべきだということをはっきり申し上げたい。
そして袂を分かった父親・勝久氏(匠大塚の会長)に頭を下げて、可能ならば大塚家具の経営者に復帰してもらう(そして匠大塚と統合する)のがベストの策ではないか。勝久氏が匠大塚で実践してきた超高級路線の経験・ノウハウを活かして、高級路線に再度フォーカスし直すこと、これしか大塚家具が生き残る道はないと考える。
【追加補論】
小生は「大塚家具が昔のやり方に戻れば再建ができるだろう」と主張している訳ではない。むしろ久美子氏が経営権を握る以前の経営のままでは着実に業績は縮小に向かっていただろうことを理解している(だからこそ久美子氏は経営方針を大きく変えるべく父親に反旗を翻し、勝久氏を放逐したのだ)。
そして匠大塚での一部フロアで目立つ「成金趣味」的なゴテゴテとした装飾の照明器具・家具や、昔の日本家屋でしかしっくりこない伝統的な和家具が新しい世代の富裕層に訴求するとも思っていない。
しかしそれでも戦略方針としては、久美子社長の狙った中途半端な「アンチフォーカス戦略」を続けるより、富裕層を主顧客とする高級品に絞った「フォーカス戦略」に復帰すべきだと考える。
経営・事業戦略
2017.12.19
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2019.03.13
2019.11.27
2019.12.31
2020.07.15
2020.09.23
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』の運営事務局も務めています。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
