組織の危機管理が注目される中、対応が後手後手と回った結果、ずるずると損害を拡大させてしまう組織もあります。先日出演したインターネット番組「スクー」でも議論した、危機管理における「速度」や対応の見きわめについて考えましょう。
しかし様子を見ながら戦力を小出しにした方が、少ない損害で済むとは考えられないのでしょうか?ちょっと出しして、相手が強ければさらに補強し、最適解を見つけることで、無駄な消耗を避けることにはならないのでしょうか?
こうした正解至上主義を否定するのはランチェスター戦略です。日本では経営戦略、特にシェア獲得の戦略としてよく知られていますが、もともとは航空戦を想定した純粋な軍事理論でした。私も日本のランチェスターの父・田岡信夫氏の本で大学生時代からゼミで勉強しました。
局地戦、一対一の戦いであれば「一騎打ちの法則」とも呼ばれるランチェスターの第一法則で、「武器効率と兵力数」で勝敗が決まるというものです。しかし近代戦は戦国時代のような一騎打ちではなく軍隊という集団戦闘が普通です。
4.第二法則
そこで第二法則では「集団戦は武器効率(第一法測と同じ)と、兵力数の二乗」で戦力が決まるとしています。集団戦では兵力数が多い方が二乗に有利になるという意味です。
このため戦力を逐次投入すれば、集団戦の場合は投入された戦力が相手より少ない以上圧倒的に不利になります。小戦力はその都度全滅の恐れがあるのですから、小出しにして様子を見るどころか、単に戦力を減耗するだけに終わってしまう可能性があるということになります。
圧倒的な物量を誇る「強者の軍」が有利という、身もフタもない結論ですが、精神論や根性論で現実を見ない組織がどうなるかは明らかです。ちなみにでは戦力の乏しい「弱者の軍」はどうすれば良いか、第一法則に帰れば良いと考えられます。強大な戦力の軍と真正面から対峙すれば確実に負けるのですから、相手を狭隘な局地戦に引っ張り込み、一対一の局地戦で戦うことにより、弱者の軍に勝機は出てくることになります。
織田信長が大平原で強大な今川軍と戦わず、桶狭間という局地戦で大将首一点に絞ったといわれる戦いは、正にこの見本のようなものといえるでしょう。(ただし歴史的には必ずしもそうではなかったという説があります)
危機対応のリーダーシップはその戦いの帰趨を決めるもの。無策も根性論も危機拡大にしかつながらないと考えるべきだと思います。戦略も道具であって、使うものです。「使われる」ものではありません。組織のリーダーは、自分が判断を下すことこそ存在意義であると自覚しなければなりません。
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2018.12.27
2022.06.29
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。