ロバート・カッツが半世紀以上も前にその重要性を指摘したコンセプチュアルスキル。このシリーズは、物事の本質をとらえる抽象化・概念化の思考をどうみずからの仕事や事業、キャリアに生かすかを考えていきます。
◆おおもとの一(いち)をつかめ
私たちは、物事の抽象度を上げておおもとの「一(いち)」を本質としてつかめば、以降、一貫性をもってそれを10通りにも、100種類にも応用展開することができます。逆にいえば、抽象化によって「一」をとらえなければ、いつまでたっても末梢の10通りや100種類に振り回されることになります。1,000パターンにも覚えることが広がったら、もうお手上げでしょう。
「一」をつかんだ者は、1,000のパターンにも対応がきくし、その「一」から発想した1,000のパターンは、抹消にとどまっていたときの1,000パターンとはまったく異なったものになるでしょう。独自性のある強い発想というのは、必ずといっていいほど、その本人が見出した本質の「一」を基にして、それを現実に合うように具体化するというプロセスを経ているものです。
すなわち「多」→「一」→「多」。
多から一をつかみ、一を多にひらくこと。これは、具体から抽象、抽象から具体へと往復する思考運動でもあります。私はこれを「π(パイ)の字思考プロセス」と名づけ、コンセプチュアル(概念化の)スキルの重要な思考フローと考えています。
◆「成功本」ばかり読んでも成功しない人
書店に行くといわゆる成功本がたくさん並んでいます。そこには仕事・人生で成功するための具体的方法が、著者それぞれの観点から説き明かされています。また本ならずとも、成功事例は、新聞にも雑誌にもテレビにも溢れています。
昨今は、ともかく具体的に、具体事例を、という要求が強まっています。しかし、あまりに具体の次元で埋没してしまうと、抽象の能力を衰えさせることにもつながります。成功本依存の人は、ある種、マニュアルを欲し、マニュアルどおりにやることに安心を得る状態になってしまっています。
「学(まな)ぶ」は「真似(まね)ぶ」から来ているとも言われるとおり、他者の成功方法をさまざま知って試してみることは決して無駄なことではありません。しかし、それをそのまま漫然と真似し続けるだけでは、根本の成功はありません。多くの具体事例をいったん抽象して、自分なりに本質や原理をつかんでみる。そのうえで、具体的な行動・方法にひらいていく。この大きな「π(パイ)の字」の思考作業をしないかぎり、成功本は真に身になりません。
また昨今、長時間労働の問題がますます大きくなってきました。処理しては湧き、処理しては湧いてくる雑多な業務に忙殺される仕事現場。具体次元に留まって、付け焼き刃的に対応しているとモグラたたき状態はいつまでも続くことになります。こんなときもやはり、いったん、抽象の次元に上がって、問題の本質を見極め、「一(いち)」をつかんで、具体の次元に下りることで、真の解決の道が開かれます。
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仕事・事業に新しい概念の光を入れる『実践コンセプチュアルスキル』
2018.01.08
2018.02.02
2018.03.11
2018.08.20
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。