ロバート・カッツが半世紀以上も前にその重要性を指摘したコンセプチュアルスキル。このシリーズは、物事の本質をとらえる抽象化・概念化の思考をどうみずからの仕事や事業、キャリアに生かすかを考えていきます。
◆変化することは大前提だが、それだけでは消耗する
私たちは変化の激しい時代に生きています。流行やトレンドが変わる、情報や技術もどんどん変わる、働く環境や立場も変わる、プロジェクトや業務が要求する知識や能力も変わる。ついでに、上司の言うことも毎回変わる……。
私は日ごろ企業内研修の場で、働く意識づくりやモチベーション喚起の教育プログラムを実施していますが、受講者の少なからずが「果てしなく続く変化対応への疲労感」「変化の中の漂流感・自己喪失感」を口にします。
変化・無常の世界で、製品・サービスを常に変えていく、自分を常に更新していくことは、もはや大前提です。しかし、私たちは環境対応への変化だけでは疲れてしまいます。そんな中で、自分の中に変えざるものを持ちたい。いや、持たなければならない。
不変の軸のようなものを持ってこそ、変化対応も悠然とできるし、逆にその軸に沿って環境を変えていくという主導権を握れるからです。
変えていくものは何か?
変えていかないものは何か?
―――この問いにしっかりと自分なりに答えを持つこと。それが変化の波を楽しむための鍵になるでしょう。
◆ガスレンジのメーカーが売っているのはレンジではない
ピーター・ドラッカーは『現代の経営〈上〉』の中で次のように書いています───「ガスレンジのメーカーは、競争相手は同業他社と考える。しかし、顧客たる主婦たちが買っているのは、レンジではなく料理のための簡単な方法である。電気、ガス、石炭、木炭のいずれのレンジであろうと構わない」。
すなわち、顧客たる主婦たちは、料理のための簡単な方法を求めている(ずっと求めてきた)。これは「変わらないもの」です。
その料理のための方法を実現する技術として、石炭・木炭もあれば、ガスもあるし、電気もある。これらは「変わるもの」です。
だから、ガスレンジメーカーは、ガスという一つの手段に固執するな。そこに凝り固まってしまうと、技術の栄枯盛衰にのまれてしまうぞ。顧客が求めている不変の価値に軸足を置きなさい。そうドラッカーは指摘しているのです。
同じように、例えば家電メーカーで小型オーディオ製品を開発する人を考えてみましょう。
彼らは数十年前まではカセットテープレコーダーによる録音再生技術や小型化のメカニズムを一心不乱に追っていました。ところが、その後は取り組みの対象がCD(コンパクトディスク)やMD(ミニディスク)による録音再生技術となり、いまでは半導体メモリによる録音再生技術となっています。半導体メモリとて、将来、どんな録音再生メディアに取って代わられるかはわかりません。
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仕事・事業に新しい概念の光を入れる『実践コンセプチュアルスキル』
2018.01.08
2018.02.02
2018.03.11
2018.08.20
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。