ロバート・カッツが半世紀以上も前にその重要性を指摘したコンセプチュアルスキル。このシリーズは、物事の本質をとらえる抽象化・概念化の思考をどうみずからの仕事や事業、キャリアに生かすかを考えていきます。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
―――金子みすず『星とたんぽぽ』
かんじんなことは、目に見えないんだよ。
―――サン・テグジュペリ『星の王子さま』(内藤濯訳、岩波書店)
◆本質は形をまとい、形は本質を強める
さて、2つの円を描きます───
内側の円は「エッセンス」(essence:本質)、
外側の円は「フォーム」(form:形態)を表わします。
この世界において、「本質は形をまとい、形は本質を強める」という相互作用がはたらいています。
例えば、「精神(こころ)」と「身体(からだ)」。精神はエッセンスであり、身体はフォームです。精神はそのあり様を身体を通じて外に表わし出そうとします。身体もまた、そのあり様によって精神に影響を与えます。
芸術は内面にひそむ本質を外側に造形する戦いと言えますが、彫刻家オーギュスト・ロダンは次のように語っています。
「良い彫刻家が人間の胴体を作る時、彼の再現するのは筋肉ばかりではありません。其は筋肉を活動させる生命です」。
「われわれが輪郭線を写し出す時は、内に包まれている精神的内容で其を豊富にするのです」。
「美は性格の中にあるのです。情熱の中にあるのです。美は性格があるからこそ、若しくは情熱が裏から見えて来るからこそ存在するのです。肉体は情熱が姿を宿す型(ムーラージ)です」。
───高村光太郎『ロダンの言葉』より
ロダンは若い彫刻家たちに、表面だけを見てそれを造形するな。内側にまなざしを向けて、そこから起こる力をとらえよ。そして内から外へ凹凸をつくり出せ、と教えました。
◆ケーススタディも形態と本質の往復作業
「学ぶ」は「真似(まね)る」から来ていると言われるとおり、まずは世の中にある手本を外側から見て真似ることから始まります。そうして形を真似ているうちに、本質的な原理がわかってきて――つまり外から内へ(アウトサイド・イン)の流れ――、やがてその原理をもとに技術の習得が進む――内から外へ(インサイド・アウト)の流れ――ことになります。
MBA(経営学修士課程)では、よくケーススタディ学習法が用いられます。このケーススタディも、この〈エッセンス〉と〈フォーム〉の往復、すなわち、アウトサイド・イン、インサイド・アウトの流れでとらえることができます。
ケーススタディにおいてまずやることは、他社の成功(あるいは失敗)事例を見つめて分析することです。これは〈フォーム〉次元です。そこから、何がその本質かという抽象をします。抽象の抽の字は「引き抜く」という意味です。そして〈エッセンス〉次元で概念化をします。
次のページ◆型の奥にひそむ本質をつかめ
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
仕事・事業に新しい概念の光を入れる『実践コンセプチュアルスキル』
2018.01.08
2018.02.02
2018.03.11
2018.08.20
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。