/『易経』は、二千五百年来の世界的ベストセラーのビジネス書。物事を6つの点で掴み取り、そのそれぞれの陰陽の関係で読み解く。その陰陽の少老から次の変化を推し測る。さらには、卦の分析から物事の障害を見抜き、その部分を陰陽反転させることで、道を開く。/
また、奇数爻が陽、偶数爻が陰であるのが「正」。64卦において「水火既済」が6爻すべて正。逆に「火水未済」はすべて不正。しかし、上述のように、爻は少から老へ、陽から陰へ変わっていく。だから、全正は次には不正になる。かならずしも既済が吉とはかぎならないのが、易学の奥深いところ。爻辞も、終わりは乱れる、首までどっぷりつかって危うい、となっている。
具体的なステップとしては、案件は下から上へ、内から外へ向かっていくものとされている。下は自分たちのことしか考えていないから、単純だ。しかし、それが通るかどうかは、上の関係を見ないといけない。逆に、上は、実際にそれをやり遂げられるかどうかは、下の何層もの支えが持つかどうかにかかっている。
すぐ上、第一爻なら第二爻が同じ陰陽なら、「比」。方向を同じくしているのはいいが、かえって先を競い合うことになって、まとまらないかも。むしろ、直下が陽、直上が陰の方が、やる気と冷静さとのバランスが取れて、結果としてうまく運ぶ。逆に、直下が陰、直上が陽だと、これはこれで断絶していて、膠着硬直ながら、とりあえず問題ない。しかし、これより下から突き上げがあると、ここで話は途切れてしまい、その後、下は途中を飛び越し、もっと上の「応」を求めることになりかねない。
変化を先読みする
そのそれぞれの地位の態度が一定であれば、案件は、下から上へ進んでいく。つまり、第一爻から第六爻まで、関係者たちの地位だけでなく、物事の展開のステップを表していもいる。
ところが、先述のように、陰は陽に、陽は陰に変わる。6つの爻のうち、老のものは、遠からず陰陽反転し、少陰、少陽となる。こうなると、卦そのものが、つまり状況が大きく変わることになる。いずれも少であれば、当座、なにも変わらないが、ときには6つとも老で、すべての爻が反転してしまうかもしれない。
6つの爻の相互の関係も、老化反転を促す。下の陽が強ければ、上が陽の比であっても、早く老化し、陰転する可能性が高い。同様に、内外の応についても、陰陰、陽陽の比でぶつかり合い続けるのではなく、この関係のせいで、いずれか一方が反転して、陰陽の合か反に落ち着くようになる。
さらに積極的に易学を用いるならば、特定の爻を反転させることによって、卦を変えることができる。うまくいかないとき、それを卦で考えるならば、いずれかの爻が全体の障害になっているということがわかる。ここにおいて、その爻に当たる人物を、陰陽反対の人物と交代させれば、卦を変えることができ、うまく通るようにできるかもしれない。望ましい新卦の形にするために、場合によっては、複数の階層で人事異動が必要になるかもしれない。まずいのは、人事交代させて、同じ陰陽の人物を据えてしまうこと。これでは何も変わらない。もっとまずいのは、とりあえず良かれと思った人物がすでに老陰、老陽で、据えたとたんに反転し、かえって悪い方向へ卦を変化させてしまうこと。
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2009.10.27
2008.09.26
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。