/『易経』は、二千五百年来の世界的ベストセラーのビジネス書。物事を6つの点で掴み取り、そのそれぞれの陰陽の関係で読み解く。その陰陽の少老から次の変化を推し測る。さらには、卦の分析から物事の障害を見抜き、その部分を陰陽反転させることで、道を開く。/
易学は役に立つ
『易経』って、なんか古くさい占いの本でしょ、いまどき繁華街の裏通りでも、筮竹を弄っている占い師なんかほとんど見かけなくなったよ、などと言うなかれ。政治や仕事の現場で、頭を冷やし、状況を客観的に理解するために、将棋や囲碁に親しんでいるという人が少なくないように、じつは『易経』も、おそろしいほど世界中で読まれているベストセラーのビジネス書だ。
とにかく古い。作者もよくわからない。紀元前500年ころ、諸子百家の時代には、すでによく読まれていた。とくに孔子は『易経』を好み、その解説「十翼」を書き足した、とされて、以後、儒学の聖典の一つとなり、これと『論語』や『孟子』をつなぐために、のちに朱子学ができてくることになる。もっとも、今日、孔子が「十翼」を書いた、というのは、否定されている。が、孔子に似た世界観や倫理観を含んでいるのは確かだ。
もともとの『易経』は、64の卦(け)と、そのそれぞれの6本の陰陽の爻(こう)について、占いの元となるかんたんな一言コメントがついているだけのもの。ところが、なぜそれぞれ、そんなコメントになるのか、というのを「十翼」が解き明かしており、これが6本の爻の間にある複雑な関係、他の卦との変転の連続を深く考えさせるところとなっている。そして、このことが、将棋や囲碁と同様、自分の目の前の状況を理解し、落ち着いた対応をとるための手掛かりになる。
陰陽に関する3つの基本
易学は、世界を陰陽で考える。でも、世間でおうおうに誤解していること。まず、陽が良く、陰が悪い、というのは、根本的なまちがい。「陽転思考」なんて言っている人がいるが、あれは易学的発想ではない。上り坂と下り坂のように、陰陽はもとより一体で同一。日本が昼なら、ブラジルは夜。日本が夏なら、ブラジルは冬。むしろすべての物事に裏と表があり、表だけの表や裏だけの裏など無い、というのが、易学の考え方。ただ主観的に、自分にとって陽は、相手にとって陰、自分にとって陰は、相手にとって陽、というだけのこと。そして、陰と陽は、うまく補完してこそ安定する関係にあり、陽ばかり、陰ばかりは、かえって危うい。
また、陰陽は、低値/高値というような状況をそのまま表すものでもない。むしろ微分係数、変化の勢いのようなもの。低値でも上り気配は陽、高値でも下り気配は陰。だから、陰陽はかならず反転する。ずっとどんどん上り気配がさらに急勾配になってなお勢いを増す、などということはない。ある程度になれば、かならず上り気配は衰え、むしろ下り気配に転じる。つまり、陰陽には、そのそれぞれに少と老があり、少陽・老陽・少陰・老陰そしてまた少陽と、永遠に循環する。
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2009.10.27
2008.09.26
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。