トヨタ自動車の復旧支援活動のやり方を見ると底流にある価値観や能力を垣間見ることができます。それは何でしょうか?
Re社の復旧活動は戦略立案からスタートし、インフラ復旧、そこから装置復旧、製品生産再開というステップで推進されました。最終的な製品生産再開の段階では復旧のポリシーとして「顧客に関係なく、品質・技術に難度の高いものから取りかかる」ことを実行し、支援者が自社で使う製品にこだわることがないように全て暗号化して進めたとのことです。
このような復旧支援の活動により当初は12月末と見込まれていた生産再開が6月末の復旧を可能にし、全面生産再開も当初計画比で約6ヵ月の短縮につなげることができました。
このような早期復旧を可能にしたのはリーダーシップを持つ特定の人がいたからでも、優秀なコンサルタントがいたからでもありません。過去の災害時の対応や日頃から発生する問題に対し即改善していくことができる能力を日々鍛えられているからできたことなのです。
それを裏付けるように2007年の中越沖地震の際のRi社への復旧支援についてもトヨタは同様の手法をとっています。この事案でもトヨタから一番最初にRi社にかけつけたのは、約20名の先遣隊でした。そのチームには自衛隊やレスキュー隊の経験者だけでなく、宿舎や食事、車などの手配を自前で行うための総務部門もいたそうです。
またこの時も当時の渡辺社長は「無理して操業を維持する必要はない。生産ラインが止まることは覚悟の上である。」とコメントしていたとのこと。正に復旧時の基本方針や考え方が受け継がれていると言えます。
その底流にあるのは緊急時においても定常時においても共通するこの考え方です。
「トヨタは目先のラインを止めないことを第一義的な目的にするのではなく、自分たちがやってきたトヨタ生産方式を守りぬくことが目的なのです。そのためには早く復旧させて定常の状態で工場を動かすこと、これを最大の目的とする。」
また「定常の状態で工場を動かすこと」という意味には、自社の製品生産のためだけに復旧支援活動をしているということではなく、自社の生産に直接関係しないような設備の復旧に関しても支援をしています。これは中越沖地震の際にも言われており、他社の中には「自社製品に使う生産再開が大丈夫であれば問題ない」という対応が一部見られたのに対して対照的であったと言われていました。
これは東日本大震災時にも受け継がれました。東日本大震災の際に復旧チームでは「自社の製品の話をした者は帰れ」ということが合言葉になっていたそうです。「定常の状態で工場を動かす」という対象は正に被災した工場全体を意味しているのです。
このように「トヨタ生産方式を守りぬく」という大きな目的や価値観の共有が全社員にできていること、また日常的な問題解決能力や現場力の強化、取引先との信頼関係が構築されているからこそ、このような危機管理能力や素晴らしい復旧活動が実現できているのでしょう。
今年の4月から起きている熊本大地震や部品工場での災害など、サプライチェーンが断絶する事案が昨今目立っていますが、それでもトヨタを初めとした日本製造業は日々その危機管理能力や復旧能力を高めており、自社の強みにつなげていることが理解できるでしょう。
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2018.02.07
2009.02.10
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。