悪代官は悪徳商人とどんな悪だくみの密談していたのか

画像: PhotoAC ぽん太さん

2015.11.25

ライフ・ソーシャル

悪代官は悪徳商人とどんな悪だくみの密談していたのか

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/武士の収入は、部下の収入に再分配され、おまけに御奉公は無償が原則。しかし、下士でも城下に広い家と敷地を与えられ、これを使ってさまざまな副業ができた。一方、現地赴任の代官となると、敷地を使った副収入は無く、新田開発や用水開削などの事業の負担を強いられ、地元商人と相談しても、苦労の連続だった。/


 しかし、無役の下士は、どうやって収入以上の出費や賄賂が可能だったか、というと、ここに知行地制の第三の秘密がある。上士はもちろん下士も、浪人とは違って、家と敷地を与えられた。これがやたら広いのだ。下っ端でも数百坪。ここに一家総出で畑を作り、自給自足は当たり前。道場や寺小屋、芸事の稽古場を作って師範となったり、表通りに面した部分を長屋や商店にして人に貸したり、さらには職人たちを集め住まわせ、手工業の経営まで。だが、これらの副業副収入は、人口の多い江戸や城下町の中心だからできることで、下士でも、村に住まわされる郷士となると、家族の内職くらいしか手が無く、いよいよ貧窮せざるをえない。


 それは代官も同じで、上士でも、江戸や城下町を離れ、直轄地の村の地方(じかた)を命ぜられるのは、お家存亡の危機。とくに幕府直轄地、約五十ヶ所の代官となると、千人の陪臣を持つ小大名規模の領地を、陪臣もろくに持っていない旗本が臨時雇いの数十人だけで管理しなければならない。その連中の給金だけでも大変なのに、新田開発だの、用水開削だの、そういう現地の事業費もすべて自弁。このため、幕府や主家は、代官新任者には大金を融通。ただし、これは、数年後の任期明けには即時返納しないといけない。返せないとなると、御家没収。だから、これを使ってしまうわけにはいかない。そこで、赴任早々、地元大商人を呼び寄せ、これをまるごと貸し付けてしまい、元金を減らさず、その金利だけをちびりちびりと代官陣屋の運営費や地域開発の事業費に当てる。とはいえ、大商人の方にしても、そんな巨額の運営費や事業費をまるまる捻出できるほどのボロい儲けなどあるわけもなく、青息吐息で精一杯。なにか隠れた地元の名産品でも掘り出し、城下や他国に売り出せぬものか、と、両者で思案を重ねる毎日。


 代官と大商人が夜な夜な密談を重ねる理由は、ひたすらこの金策と愚痴。賄賂なんてとんでもない。直轄地の収益は、もとよりすべて主君のもの。そんなのを掠め取ったら、切腹確実。隠密とやらがうろうろしており、有ること無いこと、幕府や主家に言いつけようと狙っている。そうでなくても、直轄地の豪農たち、庶民たちは、もともと他の上士知行地よりずっと上、将軍や大名などとも直接に昵懇、と思い上がっており、派遣の貧乏代官をバカにして、開発事業が進まない、近隣村落との問題が解決しない、となると、本来は代官に訴えるべきところ、むしろ、代官のせいだ、と言って、幕府や主家に直訴。こうならないように、地元名士の跡取り息子などを手代に雇い入れ、村の事情に通じ、日頃から根回しや御機嫌取り。こんなに苦労に苦労を重ね、赴任地に尽くしているのに、隠居の御老公だの、暴れん坊将軍だのが物見遊山がてら乗り込んできて、世長けた地元連中の妄言や、知ったかぶりの隠密の讒言のままに成敗されたのでは、たまったものではない。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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