「金属積層造形」という生産革新が立ち上がろうとしている。対処のしかたを間違えると、日本のモノづくりを支える地方の金属加工業や中小部品製造業にとって致命的な事態となりかねない。
http://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2015062719SC000/
例えば現時点の3Dプリンターで製造できる寸法精度は0.1ミリ程度に留まるが、顧客の要望に応えるためにはその10倍、100倍の加工精度が必要とされる。逆に熟練の職人ならば、3Dプリンティング後の熱処理による膨張を予想して製造時の値をあらかじめ微調整することも可能だそうだ。
こうした実用的なノウハウが貯まることで、先行してAM方式を導入したGEなどは最適な生産方式を組み合わせて、顧客要望により的確に応えていく体制が出来上がるというわけだ。
言い換えれば、「そんな海のものとも山のものとも分からない技術なんぞ糞食らえ」とずっと拒否している日本の大手メーカーたちは、知らない間に世界の趨勢から大きく取り残されようとしているのだ。
そしてある時(かなり痛い目に遭ってから)、彼らもAM方式の意義と性能向上に気づき、急遽かつやみくもに生産体制を切り替えようとするだろう。
その際、彼らは地方の下請け加工メーカーの生産方式の転換(または追加)まで指導してくれるだろうか。地域の金融機関は、まだまだ高価な金属3Dプリンターの導入に便宜を図ってくれるだろうか。
過去の超円高の際の行動を見る限り、そうした思慮深い行動をしてくれる大手メーカーや金融機関はごく一部に過ぎないと考えざるを得ない。
きっと大半の大手完成品メーカーは単純に、自らの設計内容を変え、その3D-CADデータで生産してくれる大手Tier-1部品メーカーに生産委託するだろう。
そしてそのTier-1(もしくはTier-2の)部品メーカーはモジュール部品をAM方式で一体成形するだけで、下請けに出す度合は一挙に減る可能性が高いと推察される。
もしかすると一部の大手完成品メーカーは、自ら3Dプリンターを導入して内製化する方向に走るかも知れない。外に発注するのは、従来方式で生産するほうが有利な部品だけにするのだ。
そうした動きが急に始まる場合、先に触れたAM方式の、精度に関する課題等を克服する時間的余裕がなく、品質問題が急増することも予想される。思慮のないメーカーだと、(新方式のノウハウが貯まるまで)従来方式に一旦戻すことを宣言するなど、かなりの混乱が生じかねない。
いずれにせよAM方式へのシフトが本格化すると(その割合は誰にも分からない)、今までの方式に磨きに磨きを掛けてきながら大手メーカーの海外生産シフトに苦しんできた地方の下請け部品メーカーは、さらに生産額を減らすことになりかねない。地場の金属加工業者の中には死活問題となるところも出てくるだろう。
だからこそ小生は、冒頭に述べたように知人には警告を発してきた。地方の中小加工メーカーの関係者や、地場の金属加工業を支援する商工会議所や金融機関の方々には、このAM方式に関する動きに目を光らせておいて欲しい。
できれば皆がドタバタと動く前に、先見性のある加工業者に薦めて、(GEの刈羽事業所のように)金属用3Dプリンターを先行導入させてノウハウを貯めるように促して欲しい。その際に必要なら、高価な金属用3Dプリンターを導入できる体力をつけるため、合併・統合も躊躇すべきではない。
日本のモノづくりの重要な一部が急死しないようにするため、できることは幾つもあるはずだ。新規事業
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/