外食産業や有名ホテルの偽装表示だけではない。冷蔵・冷凍輸送のはずが常温になっていたヤマトの「クール宅急便」。事件の本質は組織としての怠慢とコンプライアンス問題である。本来、こんな話題とは縁がない企業のはずであるのに、どうしたことか。
※「看板に偽りあり」はなぜ繰り返されるのか?(前編)はこちら
ヤマト運輸の全国約4000営業所のうち約200カ所で、「クール宅急便」の仕分けにおいて温度管理ルールが守られていなかったことが最近明らかになった。
ここで問題となっているのは、ヤマトの営業所から顧客への輸送の際の取扱いである。
営業所には冷凍・冷蔵機能のある大型仕分け室がなく、「コールドボックス」(保冷用コンテナ)で運ばれてきた荷物を仕分けする際に、どうしても外気に触れるため、クール宅急便の社内基準時間ルール「530仕分け」を規定しているという。
(1)コールドボックスから荷物を取り出す時間は、コールドボックス1本(荷物は30~50個)当たり5分以内、(2)コールドボックスから運送車両等に積み替える際に外気に触れる時間として30秒以内、と定めている。
このルールが守られず、規定時間を超えて荷物を常温にさらしていることが社内調査で判明したのである。
ヤマトの複数の営業所内で撮られた動画を観てみると、コールドボックスの扉が開けっ放しになったまま、作業員が黙々と仕分けを続けている。「冷蔵」や「冷凍」と書かれたシールが貼られた荷物がコンテナ外に置かれたままになっている場面もある。誰も温度上昇を気にしている様子はない。隠し撮りなので、これが常態なのだろう。
しかも問題は仕分けに留まらず、配達でも発生している。社内規定を逸脱した温度管理で荷物の温度が上がり、常温のまま届け先に運んでいたことが、報道機関の調査で分かっている(これは先に挙げた内部調査で判明した200営業所とは別の話であり、範囲はさらに拡がるのかも知れない)。
中元やお歳暮の繁忙期はクールの荷物が多すぎて、配送車の冷凍・冷蔵庫に入り切れなくなる。その場合は、保冷剤で温度管理することになっているが、予算不足やドライバーの不注意で保冷剤が確保できない。
また、都市部では台車を使って配送することが多いが、その間は配送車のエンジンを切るため、冷凍・冷蔵庫も止まる。台車での配達が長引くと庫内は常温に近くなる。等々。
同様の問題は日本郵便でも起きている。「チルドゆうパック」で荷物の一部が常温のまま配達されていたという。詳細な実態調査が進むにつれ、同社に関し判明する問題の規模は拡大するのかも知れない。
それでも取扱規模が各段に大きい業界の盟主・ヤマトでの問題のほうが圧倒的にインパクトが大きいことは間違いない。
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
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