本当にあった泣ける話

2013.03.26

経営・マネジメント

本当にあった泣ける話

坂口 孝則
未来調達研究所株式会社 取締役

暇だったら読んでください。調達・購買に関わらないひともぜひ。

「世界中をまたにかけて仕事をすること」「社内の人の役に立って、多くの人に幸せを与えること」「自社製品を買ってくれたお客さんから、ありがとう、と言われること」「社会を発展させる製品を生み出すこと」

彼の顔から笑顔は消えていた。その当時は、夢だけにあふれて、現実を知らずに書いたのかもしれないけれど。無知だったから書けた文章かもしれないけれど。その内容と、自分の今の心があまりに離れていることが、恥ずかしかった。昔の自分は、たしかに志を持っていた。だけど、今の自分はなんだ。情けない――。

彼は、寮の一階の自動販売機にビールを買いにいった。

このままだと、なぜか泣いてしまいそうだったから。

彼はテレビを消して、静かな部屋で考えた。「俺って、結局何かから逃げだそうとしているだけじゃないんだろうか」と。「どこに行っても同じじゃないのか? 同じような不満と不平を抱えたまま人生を過ごしていくんじゃないか?」と。

彼の目には自然と涙があふれた。

あれほど泣くまいと決めていたのに。

 
翌朝から劇的な変化が生まれた、かというとそんなことはない。でも、着実に何かを変えようと、彼は思った。

彼はそもそも調達・購買希望ではなく、営業希望だった。営業とは、お客を幸せな気持ちにすることだ。今の自分は、関わる人すべてを幸せにしているだろうか。答えはNOだった。でも、営業ではない自分がどうやって関係者を幸せにできる? 答えはわからない。でも、何かやってみようと思った。

彼の会社はSAPのR3というERPを使っていて、設計者が調達依頼書を出すときに、それぞれの調達担当者の名前を入れることになっていた。彼は、調達依頼書を出してきた設計者の名前と、調達品をメモしておいた。すると、少しずつだが、面白いことに気づくようになった。

「この設計者は、あるサプライヤーの製品ばかり依頼してくる」「こっちの設計者は、違うサプライヤーの製品ばかり依頼してくる」。それは些細な発見だけれど、大きなことのように彼には思われた。彼は、これまで見えなかったものが見えるようになっていた。

あるとき、彼は設計者が某製品を発注しようとしていることに気づいて、電話してみた。

「○○さん、あの、この製品を発注なさろうとしていますよね」
「そうだよ」
「いや、この製品とコンパチブルのものが倉庫に眠っていて、そっちを使えばタダになるんじゃないかと思って……」
「え、そうなの? ありがとう。他部門が発注しているものなんて気づかないから、助かったよ」

続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

坂口 孝則

未来調達研究所株式会社 取締役

大阪大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。未来調達研究所株式会社取締役。コスト削減のコンサルタント。『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)など著書22作。

フォロー フォローして坂口 孝則の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。