「部下のパフォーマンスや能力を正しく測定・採点することが、評価において最も大事だ」と思っていなら、それは間違いだ。
新任のマネジャーや初級管理職の研修には、必ず「評価」というテーマがある。それまでは評価される側だった人が、昇進して部下を評価する側に回るのだから、間違いのないよう評価の原則やスキルを学んでもらおうという目的である。
テキストには、「先入観を排し、事実に基づいて評価する」「成果と能力と行動(働きぶり)を混同せず、分けて評価をする」「評価の結果だけでなく、プロセスや根拠についてもしっかり説明する」といった原則が書いてある。ハロー効果や親近効果など、陥りやすい評価のエラーなども定番だ。そして、ケースがあってそれを評価してみよう、皆ですり合わせてみようという流れで進んでいく。
いつも思うのは、このような内容であれば“評価者研修”ではなく、“審査員研修”ではないかということだ。審査員とは、コンテストなどで出場者のパフォーマンスや出品された作品に点数をつけるエライ人達。ほとんどの評価者研修は、点数の付け方や、点数をつける際のコツや注意点を学ぶことが中心テーマになっているので、それは“審査”だろうと思う。
評価者は、決して“審査員”になってはならない。「部下のパフォーマンスや能力を正しく測定・採点することが大事だ(それが評価において最も大切なことだ)」などと思っているとするなら、それは間違いだ。
評価者は上司でもある。また、立てた目標は、部下本人だけではなく、上司にとっても組織にとっても重要なもののはずである。であれば、考課期間中に目標が達成できそうもない、期待した働きぶりとは違うと感じたときに、すぐに支援、協力し、修正を図ろうとするのが当然だ。ところが、放っておいて、数ヶ月経った評価の時期になって「未達成」「期待以下」と平気で評価する、あるいは思い出したように「あの時に・・・のような言動をとったからダメ」などと指摘する。
これでは、舞台で歌っているのを腕組みして見て、最後に点数をつけるのが仕事の“審査員”と全く同じだ。評価者は、その目標に当事者意識を持つ上司でもあり、途中で支援をしなければならない。『評価者-支援=審査員』だ。支援をしない上司は、評価者ではなく、単なる審査員である。
実際に、管理者が“審査員研修”を受け、点数をつけるスキルを学ぶことで、評価がうまくいくようになった会社は少ないだろう。理由は、公平・公正で納得性の高い点数をつけられるかどうかは、管理者の点数をつけるスキルよりも、多くの場合、評価制度の問題であり、評価会議の進行や合意形成の仕方の問題であるからだ。
評価者の“審査スキル”が上がったとしても、評価制度の完成度の低さによってそれが上手に表現されなかったり、処遇にうまく反映できなかったりするし、点数はしばしば稚拙な会議や上位者の思い込みによってゆがめられがちだ。逆に言えば、制度と会議をうまく変えることができれば、点数をつけるスキルなど大して重要ではないのである。
人事制度
2013.05.24
2012.12.14
2012.04.13
2011.06.27
2010.08.18
2010.06.10
2010.02.15
2009.07.30
2009.05.12
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。