人事制度は、処遇システムであり、人材育成システムでもあります。
昨夜は、ある有名アパレルメーカーの人事担当者たちと飲んだのですが、社員数約600人の処遇について、いまだに社長が鉛筆なめなめでやっているのに近い状態だということに驚きました。自分たちの昇給や賞与がなぜそういう額になっているのかを、これまで全く知ったことがない、誰かが昇進したというのも社長が認めた、気に入ったということだけが根拠なんだろうと思う、という話です。
しかしながらその表情からは、決して不満を述べているのではないことが分ります。600人を大したルールもないのに、不満なく処遇することができる能力。これは、普通の経営者ではまず不可能。凄いとしか言いようがありません。
一方で、明確ではないものの人材、特に「幹部クラス」と「変革を起こせる人」が育ってこないという感じを持っているようでした。前者は、すごい社長に示唆や刺激を与えることができたり、社長の思想やコンセプトを形にして現場に見せることができたりする人のこと。後者は、従来のブランドパワーやビジネスモデルに乗っかっているだけでなく、これを利用して新しい事業や商品を産み出すことができる人、イノベーティブな創意工夫あふれる人材といったイメージです。
事業は堅調であるけれども、このような人材がいないことで会社が変わっていかない、将来はどうなるのか・・・といった感じが漂うのは否めないようです。
ここに、人事制度が持つ二つの側面を見ることができます。一つは、制度がなくても不満のない処遇をしている会社もある、つまり、処遇に不満が出るのは人事制度がないことが原因ではないということです。人事制度は直接的には処遇システムでありますが、これをしっかり作ってルールや運用を明確にすれば、処遇や評価への不満がなくなるわけではなくて、結果への納得感の有無や決めた人に対する信頼とか、給与水準の安定感や項目への安心感などがあったり、演出できたりするのであれば、制度などなくても一向に構いません。人事制度は、処遇への納得感を高めるために絶対的に重要ということではなく、一つのツールでしかないということです。
もう一つは、人事制度は育成システムとして非常に重要であるということ。良い人事制度とは何かと聞かれれば、私は「階層や職種や仕事ごとに、期待されていることがシャープな言葉で端的に表現されている。」ことが絶対の条件だと答えます。
どうも、テーブルや算式に視点が集中してしまっている会社が多いのですが、それよりも、等級定義や評価基準において、期待や求めたいことがシンプルにメッセージされているかどうか、またその表現の巧拙のほうがはるかに重要です。
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人事制度
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。