普段、見知った相手から思いや感情を引き出したり、会話を盛り上げたりできないのに、面接だけは上手という人はいないはずだ。
実績やスキルや人脈などが基本的にはない新卒採用においては、その学生のパーソナリティや能力を推し量り、その可能性を判断することが面接の目的となる。とは言え、見えるものではないし、見た目や雰囲気の影響も大きく、大学名や学生時代の活動内容による先入観からも逃れにくいから難しい。というより、いくら時間をかけても、回数を重ねても、もちろん何千人と面接した実績があるという自称“面接のプロ”だって、完全に人を把握することなどできるはずはない。しかしながら、拙い面接の結果、何となく受けた印象で合否の判断を下すのは危険であるし、面接を受けた学生の合否への納得性の観点からも問題がある。だから少しでも、面接の技術を上達させることは大切だ。
面接では、その学生のパーソナリティや能力を推し量らねばならない。それは、「彼が何をやってきたか」を聴いても分らない。事実を確認しているだけだからだ。「ある状況・背景において、どう考え、どう感じ、どう行動したか」を把握することで、初めて彼の中身に触れることになる。状況・背景を知り、そこでどう考え、どう感じ、どう行動したかを知るためには、一問一答のような受け答えでは無理で、しっかりと説明してもらえるような質問の仕方が重要になってくる。学生が用意してきた回答を受け取るだけではなく、その場で考えて回答しなければならないような質問をできるかどうかが鍵となる。アンケートをとるような網羅的で深みのない会話は意味がない。
面接における具体的なコミュニケーション技術は、「広げる」「深める」「まとめる」ことである。その学生が物事をどう捉え、どう行動するかを判断できるような話題はそんなに多くはないので、まずは、そのようなポイントにたどり着くために話題を広げなければならない。そのポイントにたどり着かずに面接を終了してしまったら、失敗である。次に、そのポイントに来たら、そこでじっくり話を深める。具体的な描写を求めると共に、そこでの状況の捉え方や思考、感情を言葉にしてもらうことだ。最後に、話の内容や相手の言いたかったことをまとめ、整理して返して、こちらの理解の確さかを確認する。面接側の勝手な理解とならないよう、また学生側に伝わった実感があるようにするのである。また、このような会話が可能となる前提として、話しやすい雰囲気づくりと、こちらの興味関心が伝わっていることが大切となる。
面接は、「話しやすい雰囲気を作る」「相手に対して興味関心を表す」ことを前提として、「広げる」「深める」「まとめる」というコミュニケーションの技術が問われる。であれば、面接が上手いか下手かは、その人の普段の雑談する力と大いに関係しているように思う。雑談の巧拙は、関連することに話題を変える(広げる)こと、ここというポイントで内容を掘り下げていく(深める)こと、相手の話やこれまでの会話を整理して返したり引き取って話したりする(まとめる)こと、を柔軟にできるかどうかにかかっている。話しやすい雰囲気があり、相手への興味関心が感じられる、という点でも面接と雑談は同じである。一問一答形式で、事実を単に網羅するような雑談は面白くも何ともない。
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。