東日本大震災の影響でサプライチェーンが寸断され、多くの企業が供給停止になっていることを受け、効率・利潤追求を目指し在庫を極限まで減らすジャストインタイムの弊害が喧伝されている。果たして、震災を理由に、ジャストインタイム生産(JIT)を見直し、在庫を積み増すべきか?
在庫を多く持つ事で、突発的な災害や事故にたまたま対応できることはあるかもしれないが、そんな場当たり的な経営では、そもそも平時の競争を生き抜くことができない。JITを行うべきか、在庫をどこでどれだけ積むべきかは、各社のビジネスモデル、リスクの取り方に関わってくる問題で、震災への対応は、この問題を検討する中でのあまたある項目の一つに過ぎない。
どれだけ在庫を持って震災に備えるかというのは、在庫の持ち高だけの問題でなく、調達-生産-在庫-配送の全体で平時のオペレーションの効率とリスクマネジメント、危機対応とをどうバランスさせるかという問題だ。
この問題への解はすべての企業に共通ではない。対面しているお客様のニーズによって異なってくる。例えば、安定供給に価値を置くお客様であれば、たとえ多少のプレミアムを払っても(価格が高くなっても)、工場を地理的に分散させる、在庫を多めに持つといった危機対策を取ることでオペレーションコストが高くなっている企業を選ぶだろう。コストを重視するお客様であれば、危機対策をするようにと口では求めても、結局は価格競争力のあるサプライヤを選ぶものだ。
大切なのは、自社がどういったお客様をターゲットにし、ローリスクローリターン、ミドルリスクミドルリターン、ハイリスクハイリターンのどのレベルでオペレーションの効率とリスクマネジメント、危機対応とをバランスさせるのかということについて分かって経営することだ。それがないと、商品開発-設計-営業-計画-生産-調達-物流のすべてのオペレーションがバラバラとなり、結局、何れのお客様のニーズにも応えられなくなり、地震で被災する前に淘汰されてしまう。
トヨタで部品調達を担当する幹部は、震災後のJITの見直しについて、「寸断されたらみんなで協力して復旧すればいい。有事の際に費用が掛かっても、平時部品在庫をたくさん持つよりコストは安い(出所:日本経済新聞2011年4月4日 17面)」と答えている。そもそもJITを選ぶべきか否かは各社のあるべきビジネスモデル次第だし、「寸断されたらみんなで協力して」という考え方に甘えや驕りが感じられないでもない。それでも、自分が何をしているかをしっかりと認識した上で、それに基づき何をすべきかを判断するというこのトヨタの幹部の姿勢については、経営、オペレーションで意思決定に携わる者すべてが見習うべきだ。
人は身近なもの、直近で起こったことを過大評価しがち。震災で動揺、混乱が広がっている今だからこそ、地に足のついた意思決定を心掛けたい。
中ノ森 清訓/株式会社 戦略調達 代表取締役社長
調達・購買業務に関わる代行・アウトソーシング、システム導入、コンサルティングを通じて、お客様の「最善の調達・購買」を実現することにより、調達・購買コスト、物流費用、経費削減を支援する傍ら、日本における調達・購買業務とそのマネジメントの確立に向け、それらの理論化、体系化を行なっている。
コーポレートサイト: http://www.samuraisourcing.com/
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
週刊 戦略調達 vol.100~
2011.06.07
2011.06.01
2011.05.25
2011.05.17
2011.05.10
2011.04.27
2011.04.19
2011.04.12
2011.04.05
株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます