「事を成しかけ、全うしないのは罪である」フロリダ事件の蛮勇

2010.12.20

経営・マネジメント

「事を成しかけ、全うしないのは罪である」フロリダ事件の蛮勇

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

ビジネスでも戦いでも、「どこで攻めるか」「どこで引くか」が戦略の要諦。正に経営判断、戦略判断を問われるところです。

フロリダ教育委員会に立てこもった男に、果敢に立ち向かったご婦人。しかし男の拳銃をハンドバッグではたこうとしたものの、男は身をかわし、拳銃を手放すことも、人質を解放することも出来ませんでした。激昂した男はそのご婦人を狙うのか!と思いきや、結局何もせず、教育委員に向かって発砲を始めてしまい、警備員から一斉射撃を受け自殺したということでした。

幸いにも犠牲者は無く、犯人自殺で大団円ということかも知れません。またこのご婦人の放ったハンドバッグはオークションで売られているそうです。

戦略思考からすれば、このハンドバッグ攻撃は最悪の決断と言えます。なぜなら、その結果を全く考えずに行動したからです。犯人がスキだらけで、その銃さえ奪えば無力化出来ると判断したまでは良かったのですが、結果行ったアクションが、「女性の腕力で」「ハンドバッグでたたき落とす」という作戦行動でした。
この作戦が100%(実際に100%ではなくとも、現実的にほぼ100%成功が見えて)確証をもって行ったのかどうかが重要です。私はどう考えても無謀な、ただの蛮勇としか評価出来ません。

もし今回のように、銃を奪えなかった時、どうなるでしょうか?普通に考えれば犯人は激昂して、その婦人を攻撃するでしょう。蛮勇の報いが自分に返ってくるのは、あくまで1対1の戦闘においてのみ許される選択です。

今回は他に多数の人質の命が握られていました。作戦行動の失敗は自分への反攻だけでなく、全滅のリスクを負うのです。もし犯人のスキをついて銃を落とすのであれば、確実に、例えば刃物で一気に犯人の腕を殺し(腕の機能を破壊すること)、二度と銃を使えなくするくらいの確実な攻撃を仕掛け、それが失敗した場合には犯人に反攻をさせない二の矢、三の矢というオプションを用意しなければならないのです。

一発で確実に犯人にとどめを刺す攻撃も、「攻撃力を奪う」という戦略目標からすれば理にかなっています。このように一方的な人質をとった立てこもり事件では、戦略目標から外れたことをすれば、ただちに全滅を呼ぶほどの巨大なリスクであることを考えなければなりません。

ロシアの北オセチアで起きた学校占拠事件の際は、チェンチェンゲリラと思われる犯人グループに対し特殊部隊(軍ではなく、KGBのアルファ、あるいはOMONと言われている)と銃撃戦となり、犯人グループは1人除き全員射殺され、完全制圧されたものの、多数の人質が犠牲になるという痛ましい結果となったのでした。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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