日産自動車は、日立製作所から調達しているエンジン制御部品の入荷遅れのため、国内4つの完成車工場で3日間の操業停止を決めました。 これを単なる景気回復時の需給バランスの調整、日立の納期管理、サプライヤ管理の問題と見ていると問題の本質を見誤ります。 今回は、この日立の納期遅れによる日産の生産停止をケースに、その背景にあるモノづくり、調達・購買における構造変化について考えます。
確かに、1960~1980年代の日本の高度成長期では、日本企業について行けば取引も伸びたので、サプライヤから見れば、日本企業は神様だったかもしれません。しかし、1990年以降、日本企業は、日本で大企業であってもメジャー化が進んでおらず、現在のグローバル市場で見れば中小企業にすぎなくなっています。また、事業、品種が多岐に亘っており、企業規模が大きくても、事業、取引単位で見れば、一つひとつの取引は更に小さく見えます。加えて、品質や短納期の要求はきつい。グローバル市場のサプライヤから見れば、日本企業は神様どころか、お客様、ひどい時には単なるクレーマーとしか見られていません。
もともと、海外企業は個々の取引での採算管理が徹底しているケースが多く、こちらが、長期的取引を約束したり、将来的利益を訴えても、話半分にしか聞いていません。商品・サービスの価格競争力の維持を考えると、こうした海外企業とより上手くより多く付き合っていかざるを得ません。
たとえば、今回のケースでは、STマイクロは10日ほどまえに、日産向けのICについて契約数量の8割強しか供給できないと一方的に通告してきたとのことです。日立はただちに自動車部品子会社、日立オートモティブシステムズの専務らを欧州に派遣、STマイクロに釈明を求めましたが、詳しい釈明は一切なかったとの事です。(出所:同上)
このような環境の中で、今回の件を単なる需給バランスの調整、他社(日立)の納期管理、サプライヤ管理の失敗と捉え、いつまでも「お客様は神様」という立場にあぐらをかいていると、貴社の工場のラインもすぐに停止することになりかねません。
マスコミの論調では、日立の責任を追求する声もありますが、分かる人から見れば、今回の生産停止の原因は最終的には日産にあります。日立からの1社購買、STマイクロのカスタムICの採用を日産が選んだ時点で、こうした事態は避けられないことは明白です。
「モノが届かないなんて日本企業の常識では考えられない!」ではなくて、モノが届かないこともあるという前提で、そうした事態にどう対処するか、どれだけそのリスクをサプライヤに転嫁し、どれだけ自社で引き受けるのかを考える必要があります。海外サプライヤの場合は、自然災害、工場事故に加えて、工場スト、港湾スト、政情不安定など、日本では考えられない要因で供給が止まることは少なくありません。
加えて、海外のサプライヤと付き合っていく上では、こうしたリスク配分までもが、取引価格、信頼関係の構築に大きく影響します。長期的な信頼関係は同一民族でなければ築けないというものではありません。相手の価値観、価値判断の基準を理解し、それを尊重していけば、信頼を勝ち取ることはできます。
次のページそろそろ「お客様は神様」という買い手の自分にとって甘い...
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
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