もう一度読み返したい本: 【 21世紀の国富論 】①(著)原丈二 氏
■ こういった傾向は、ひとつに「行き過ぎた時価会計主義」に起因する。ベンチャーキャピタルへの資金の出し手である機関投資家は、できるだけ時価会計主義による長期リスクを避け、より短期の投資収益を求めるからだ。過剰な時価会計は短期的な利益のみを要求して、研究開発では革新的なものの芽を育てられず、小さな成功ばかりを志向するようになってしまっている。
■ 真剣に研究開発を行い、真の革新的なものを生み出そうとするならば、結果がでるまで最低3~5年は
かかる。もし短期的な株価上昇と引き換えに蓄積した内部留保を配当として分配してしまえば、次の研究開発へ投資することは不可能であり、新しいものを生むことはできなくなってしまう。
~ストックオプションを見直す~
■ 「企業は株主のもの」という考えにより、企業の目的は、株主価値を上げること、つまり株価を上げることとし、それを短期的に実現することが優れた経営であるとみなされる風潮がある。一連の会計不正事件の根本的な原因もこの考えに起因する。
■ 本来、企業というものは従業員や顧客、仕入先などを含めたパブリックなものであり、決して株主だけのものではない。しかも、アメリカの大企業の株主の多くは、短期的な株価の上昇を望み、最高値で売り抜けることしか考えていない。
■ このような考え方がまかり通るのは、企業を経営するCEOにも好都合だからだ。なぜならば、CEO自身も、ストックオプションを所有し、短期的な株価の値上がりによる利益を享受しているからだ。
■ よくあるパターンは、新CEOは、就任するや過去の累損を一掃する。そして過去の損失だけでなく、将来でるかもしれない負債までも引き当てる形で特別損失を計上する。これにより株価は大きく下落し、底値を見極めたところで、CEOはじめとする経営陣対象にストックオプションを付与する。その後、経費を削減すれば2~3年後には自然と利益が上がり、「見せかけの再建」を行い、IRを駆使して株価が上がった段階でオプションを行使する。こういう「CEOゴロ」は濡れ手にアワの利益を獲得するが、何かを生み出したかというと、何も生み出していない。
■ そもそもストックオプションは、まだ利益の出ていないベンチャー企業などが、十分ともいえない給与だけでは従業員のやる気を維持できないから、社員の自社株を購入する権利を与えるところにある。
■ あとから入ってきたマネジメント・チームがストックオプションをもつのは、本来の目的とズレている。また、日本のベンチャービジネスの中には、オーナー自身がストックオプションを要求するということがみられるが、
これも原理原則に反する話だ。
次のページ~新しい技術がつくる産業~
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
【もう一度読み返したい本】シリーズ
2008.08.01
2008.04.10
2007.10.01
2007.10.01
2007.09.13
2007.08.30
2007.08.22
2007.08.08
2015.07.28