外食企業の農業参入への動きが進んでいます。 実は、この背景には、食の安心・安全意識の高まりや農業を巡る規制緩和の他に、経営の前提の幾つかが大きく変わっていることにあり、原料・素材の確保について考えなければいけないのは、他産業にも当てはまることです。 今回は、経営の前提の何が変わり、それにどう対応すべきかについて見ていきます。
日本経済新聞社の2009年度飲食業調査によると、外食企業の内、有効回答企業の約2割にあたる45社が農業に参入済み、または参入の意向とのことです。(出所:2010年5月17日 日本経済新聞 1面)
記事によると、その背景には食の安心・安全意識の高まりや農業を巡る規制緩和が背景にあるとのことですが、それだけではないと思います。もう一つの背景には、企画からお客様への商品・サービスの提供までの価値が相対的に薄れ、素材の希少性、価値が高まっていることがあります。
外食の本来の価値は、業態・メニュー開発、出店戦略、調理・接客などの店舗運営などにありますが、業態・メニュー開発、店舗運営はどんなにぎりぎりまで優れたアイディアを出した所で、特に外食のような消費者向けビジネスでは情報、ノウハウが丸裸になり、すぐに真似をされてしまいます。
従業員教育では会社の価値観、文化、実力などによりバラつきがでますが、優れた会社も少なくありませんので、そうした各社が努力を重ねることでやがては追いつかれてしまいます。
結局、価値は「希少性」のある所に移る訳ですが、そうした中で、外食産業でも、より川上の素材に目をつけ、自社農園での栽培という流れが生まれていることも、今回の調査結果を後押ししているものと考えられます。
こうした川上への希少性のシフトは、外食産業に限ったことではありません。あなたも、鉄鉱石を始めとする鉱石類、レアメタル、レアアースなどで資源メジャー、素材メーカの立場が強くなっているというのを肌身で感じたり、ニュースで見聞きしていませんか。資源メジャーや素材メーカが、強気の値上げを迫ったり、価格交渉方式の市場連動型への切り替え、価格見直し期間の短縮化など、いずれも資源、素材の高騰に合わせて、それをスムーズに価格転嫁するための動きです。市場連動型の価格決定や、価格見直し期間の短縮は、相場のトレンドによっては買い手にとってもメリットがあることも多いのですが、需要の回復の兆しが見えない現在、これらの見直しが資源メジャーから鉄鋼などの素材メーカへ、素材メーカから自動車、電機などの部品・製品メーカへなど川上から少しずつ川中、川下に向かって進んでいるというのが特徴的です。
もう一つの懸念は、市場が機能しなくなっていることです。これまでの商品市場は、需給の調整や先物による価格安定機能を果たしてきました。しかし、近年のマネーの過剰流動性により、投機マネーが非常に大量に様々な商品市場に入り込むことにより、短期的な価格の上下のブレが激しすぎて、商品市場が需給、価格の調整機能を果たせなくなっています。先の値決め方式の市場連動型、価格見直し期間の短縮と相まって、買い手企業にとっては、今後の資源、素材の価格がますます安定しなくなることが懸念されています。買い手企業にとっては、中長期的な価格上昇だけでなく、この価格の不安定さが個々の意思決定を難しくし、その巧拙によって業績を大きく左右されることになることから、非常に頭の痛いところです。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
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