トヨタ自動車は、系列の部品会社に対し、部品価格を3年間かけて平均3割、一部の部品には4割の引き下げを求めている模様です。トヨタは、弊社が申し上げるまでも無く、世界的にすばらしい会社ですが、こと調達に限って言えば、トヨタは真似すべきでない、真似をするのであれば最後に参考にすべき会社だという事を明らかにします。
加えて、トヨタのサプライヤ「統合」アプローチが成功した条件に、1950年代から2008年までの自動車産業の特殊性がありました。自動車は、これまで、3万点もの部品が、衝撃安全性、燃費、走行安定性、加速性など時には相反する各性能を満たすために複雑に絡み合うため、各部品間ののきめ細かな相互調整や最適設計が必要となるすり合わせ型の産業でした。こうした厳しい品質要求に応えられ、且つすり合わせに掛かるコミュニケーションの手間を考えると、仕様変更や取引先選択の自由よりも、とにかく必要量を供給できるサプライヤの確保が優先されました。「調達」における自由度があまりないために、必要な量を確保しつつも、コストを抑制するには、サプライヤを「統合」し、そのコストまで管理していくしか方法がなかったのです。加えて、この期間は自動車市場が大きく伸びておりましたので、「統合」によりサプライチェーンが肥大化しても、皆が仲良く成長する事ができました。
このような前提条件が揃っていない市場で「統合」のアプローチを用いても、サプライチェーンの硬直化のリスクだけを背負う事になります。ベストプラクティスを用いるには、それが効果を上げるための前提条件が、自らの置かれている環境に適しているかを見極めた上で、ベンチマークする対象を決める必要があります。「世界的な優良会社だから」といっても、すべての行動が参考になる訳ではありません。
まして、現在は、製品が多様化し、製品寿命が短くなる一方、技術変化のスピードが非常に上がっており、この傾向は今後ますます進むでしょう。そのため、どの企業も、多様な材を調達しなければならず、少数のサプライヤがすべての調達品でベストである事は少なくなっています。また、ベストであったサプライヤであってもその地位をすぐに失う事になります。
産業単位で見ると、全体が揃って成長していくという産業は少なくなっている上に、2008年の信用バブルの崩壊後、市場が縮小したまま、もしくは市場が縮小していく産業が増えています。
冒頭、このトヨタ自動車の部品調達コスト3割減の見出しを見た時には、もっと違う文脈の記事を期待していたと述べましたが、それは、ガソリン車から電気自動車に自動車産業がシフトしていく中で、トヨタが「統合」アプローチを見直すというものです。残念ながら、今回はそれとはかけ離れた値引き要請のつまらない記事でした。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます