トヨタ自動車は、系列の部品会社に対し、部品価格を3年間かけて平均3割、一部の部品には4割の引き下げを求めている模様です。トヨタは、弊社が申し上げるまでも無く、世界的にすばらしい会社ですが、こと調達に限って言えば、トヨタは真似すべきでない、真似をするのであれば最後に参考にすべき会社だという事を明らかにします。
文章で書くと簡単ですが、サプライヤの原価を正確に把握するというのは、並大抵の事ではありません。たとえば、自社の製品・サービスであっても、単品レベルで開発や物流、販売管理、メンテナンス・サービスも含めた正確なコストを把握できていない会社が殆どの中で、他社からの購入品の正確な原価の把握をする事がどれ程大変な事かは、容易に想像頂けるかと。
そのため、トヨタは、サプライヤの工程にも原価把握のための専門調査員を貼り付け、相当な人員、工数、費用を掛けて、調達品の正確な原価の把握に努めています。それでも、やはり、開発やメンテナンス・サービスなどの製造原価以外のコストも含めた本当の原価の把握は難しいでしょう。
仮に、原価が把握できたとしても、本来は、サプライヤの適正な利益を買い手が決める事はできません。サプライヤの適正な利益を決められるようにする唯一の方法は、そのサプライヤの経営権を握り、それらのサプライヤを自社のオペレーションに密接に「統合」していくしかありません。
この難しい仕事を精緻かつ大規模に実現しているトヨタの力には本当に凄いものがあります。しかし、「統合」には非常に危険な副作用があります。それは、その価値の源泉である「自由」を捨てる事により、「調達」という機能そのものを捨てるという事です。
サプライヤの経営権を握るという事は、その会社で働く人材を始めとする様々なステークホルダーに責任を負う事でもあります。責任を負うという事は、環境変化に応じて、迅速機敏に調達品の調達先を変えられなくなるという事です。
「統合」は、このように、実施が難しい上に、失うものが大きい、非常にハイリスクな考え方です。にも関わらず、多くの企業が盲目的に、あるいは、それが安易なため、取引先を固定し、個々の調達品をその取引先任せとし、その理由として、「トヨタも取引先を固定し、長期的関係があるから、現在の繁栄がある」と言われます。しかし、そう言われる会社で、トヨタと同じレベルで取引先の「統合」を目指している会社を見た事はありません。これらの会社がやられている事は、たまたま良心的なサプライヤが彼らのできる範囲で尽くしてくれている事にあぐらをかいているか、実は高い買い物をしているかの何れかです。これは、トヨタの行っている「統合」とは異なり、「運任せ」と言った方が良いかもしれません。
優れた会社の業務プロセスを学ぶ手法をベストプラクティス、ベンチマーキングと言いますが、自分のやっている事を正当化するために、優れた他社を例にあげるのは、ベストプラクティスではありません。本来のベストプラクティスは、同業他社に限らず、業界、規模を超え、改善したいプロセスで最も進んでいるものから「学ぶ」事を意味します。航空会社がカーレースのコックピット・クルーに給油・車体整備プロセスの短縮方法を学ぶ、銀行がファーストフードチェーンに窓口でのお客様の待ち時間短縮の方法を学ぶ、財務部門が物流部門にSCMの考えを応用した効率的なキャッシュマネジメントの方法を学ぶといったものです。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
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