「ココカラ変ワル」をキーワードに創造されたというNIKE原宿ストアで、ウェブ時代の店舗、「店舗2.0」への挑戦を垣間見た!
仕立て屋さんだったら、昔からあった、という人もいるかもしれない。だが、元来、アメリカにおけるジーンズの位置づけは、「ワーク・ウェア(労働の服)」である。仕立てとは無縁であるはずのものなのだが、そこを逆手にとって、差別化を図っている、というところが面白いと、私には思える。
ネット初期の90年代後半から2000年にかけて、「ワン・トゥー・ワン」という言葉が流行った。ネット・ショッピングは、ショッパーの「個」とウェブサイトが一対一で向き合う仕組み。その特徴を活かして、顧客の望みの仕様に合わせて商品をカスタマイズするというビジネス・モデルやサービスが続々登場した。前述のNIKEiDも、もとはといえばウェブサイトにおいて先行したカスタマイズのサービス。その他にも、プロクター・アンド・ギャンブルがかつて展開した化粧品のカスタマイズ・サイト、Reflect.comなど、「マス・カスタマイゼーション」をキーワードとしたウェブ・ビジネスの例は挙げ始めたらきりがない。
興味深いのは、「ウェブ」が当たり前になった世の中で店舗が変革していくにあたって、ひところはウェブの利点を活用したサービスだと思われていた「カスタマイズ」=「個」に対応するサービスが、新しい時代に向かう店舗の存在意義として取り入れられ、研ぎ澄まされる傾向にあるということだ。
ただし、ウェブにおける「カスタマイズ」と、店舗における「カスタマイズ」の決定的な相違は、「人と人」の触れ合いの有無である。ハイテク化、自動化が進んで、いわゆる「労働力」を人の力に頼るところが少なくなった今、感性や創造力、機転など、「人にしかない」力をフル活用し、顧客の感動を創造することが店舗に求められている。
私の目が捉える限りでいっても、今日の店舗の傾向は、「ハイパー・カスタマイゼーション(「個」対応の徹底)」であり、「ハイパー・ローカライゼーション(地域対応の徹底)」である。ナイキ原宿とインテリゲンツィア・コーヒー・アンド・ティーに共通しているもうひとつの要素は、コミュニティ(仲間)意識の育成だともいえよう。ナイキ原宿は、「女性オンリーのランニング・イベント」など、スポーツ志向のライフスタイルとロケーションを意識したコミュニティ・イベントの数々を展開していく予定だという。この点も、コーヒーにこだわりをもつオーディエンスを対象に、バリスタ・クラスやテイスティング・イベント、焙煎所ツアーなどを企画、運営しているインテリゲンツィア・コーヒー・アンド・ティーと狙いを同じくする。
ただ単に、「物を買う」、「サービスを消費する」というだけではなく、そこにワクワク感や、感動や、人のあたたかみがあったほうが良いに決まっている。マウスのクリックひとつで、あるいは、ケータイのボタンひとつで、いつでもどこにいても物が買えてしまうという「便宜性」自体がコモディティ化している時代に、「店に来てもらう」ことの必然性を求めて店舗が変わりはじめた。コンサルタントという職業的興味からだけではなく、買い物好きの私としては、生活者にとっても楽しい時代になってきたと感じる今日このごろである。
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仕組み
2009.12.01
2009.10.06
2008.05.01
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。