人気ラーメン店「博多 一風堂」を展開する河原成美さん。長年にわたって日本のラーメン界をリードしてきた男の経営哲学は「変わらないために変わり続ける」こと。この経営哲学を通じて、一体何を実現してきたのだろうか? [嶋田淑之,Business Media 誠]
この哲学の意味を分かりやすく述べると、次のようになろうか。すなわち、河原さんが一風堂を開き、今までにない独創性にあふれた絶品ラーメンを創出したことで、ラーメン界の「環境乱気流水準」(I・アンゾフ)は一挙に上昇する。すなわち、河原さんに刺激を受けた若く才能にあふれたラーメン職人たちが、次から次へと、「我こそは!」と斬新な逸品を世に送り出すようになっていった。
それに伴って、お客さんたちの舌も肥えていき、よりおいしい新しい味を求めて、食べ歩くようになる。こうした現象が広がっていけば、河原さんが創業当時とまったく同じ味のものを出していても、「以前より味が落ちた」という評判が立つようになるものだ。
さらにはラーメン業界外のさまざまな環境変化も、評価に影響を及ぼす。例えば「減塩志向」が世の中に広がれば、それまでと同じ味だと、「一風堂のラーメンは、最近、なんだか塩辛くなったね」と言われかねない。だからこそ業界の内外を問わず、新しい環境変化を常に読み続け、味を変化させ続ける必要がある。
河原さんの運営するお店は、まさに、そうした時代の風に敏感に対応しているわけだが、実は出店するエリアの地域特性にも鋭敏に反応している。従ってどれひとつをとっても、まったく同じ味の店は存在しないという。
変えなくてはいけないのは味だけではない。接客サービスやクレンリネス(店内外の清掃)だって同様だ。
河原さんが、それまでの「無愛想な店主の臭くて汚いラーメン屋がおいしい」という業界の常識を覆したことで、この分野でも環境乱気流水準は一気に上昇したからである。河原さんに刺激を受けて、これまでにない卓越した接客やクレンリネスを提供する店が急増すれば、それまでと同じ接客・クレンリネスでは、顧客の評価を下げることになる。
「変わらない」ためには、何を変え、何を守るのか?
とは言っても味はもちろん、接客サービス、クレンリネスも、闇雲に変えるわけにはいかない。経営においては、どんなに環境が変化したとしても決して変えてはいけないもの(=「不変」の対象)と、環境変化に対応して非連続・現状否定型で変えていくべきもの(=「革新」の対象)とが存在するものだ。
一般的には、経営哲学や中核能力としてのメタ・コンピタンスは不変の対象になることが多い。しかし実のところ、不変の対象と革新の対象を的確に識別することはことのほか難しい。創業当時の顧客第一主義の理念をいつしか忘れ、商品を現金創出の手段にして数々の偽装に手を染めた老舗企業のケースを見れば、それは明らかだろう。
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「博多 一風堂」河原成美物語
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