脱ノルマ・・・資生堂の挑戦

2007.08.30

営業・マーケティング

脱ノルマ・・・資生堂の挑戦

松尾 順
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

「売上」は、会社の「通知表」ですよね。 具体的に言えば、 「自社(社員)や自社の商品が、顧客に受け入れられているか」 を数値として把握できるのが「売上」です。

すなわち、「売上」とは、

「日々の企業活動」

が有効であったかどうかを
最終的に評価するための結果に過ぎない。

ですから、

個々の社員の「直接目標」として「売上」を掲げること

は本来変だと私は思っています。

むしろ、「目標」として掲げるべきは、

「お客様に自社(社員)や自社商品が受け入れられるためには、
 どんな行動(プロセス)が必要か」

を明らかにし、その行動を直接評価できる「指標」
であるべきではないでしょうか。

ちなみに、その最も典型的な指標のひとつが

「顧客満足度」

です。

もちろん、「売上」はわかりやすい数字ですし、
そうした明確な目標があったほうが、
やる気が高まるという効果を否定はしません。

ただ、売上を重視しすぎると「顧客不在」の思考に陥ります。

そして、詐欺まがいの押し売りや偽装行為など、
巷をにぎわす不祥事にいつかは確実につながりますよね。

また、短期的には業績を伸ばすことができても、
長期的には顧客からそっぽを向かれ、事業の継続ができません。

最近は、こうした考えに基づき、「売上」を目標にしない、
すなわち「ノルマ」を廃止する企業が大手にも出てきました。

たとえば、資生堂は、
06年春から美容部員の売上ノルマを人事評価から
外しています。(日経MJ、07/08/27)

この結果、美容部員が販売を担当する

「カウンセリング化粧品」

の07年3月期の売上高は、

前期比3.5%減の2千306億円

に低下しました。

これは、従来であれば

「販売力の低下」

とみなされたところです。

しかし、真実は、
押し売りに近い形で商品を買わされてしまい、
家に戻ってから悔しい思いをしていた

「不満足客の減少」(これは良いこと!)

を意味すると考えるのが
正しいんじゃないでしょうか。

実際、売上ノルマを外すことで、
売らんかなの強引な接客が影を潜め、

「どうすれば顧客に喜んでもらえるか、を
 個々の美容部員が必死に考えるようになった」

(都内のある百貨店の責任者)

とのことですから、売り上げ低下は

「適正な企業行動(美容部員の接客行為)」

を正確に反映しているだけなのです。

現在の資生堂の美容部員の主な評価項目(評価指標)は
次のとおりです。

・顧客からのはがきの採点(接客態度を評価するもの)
・接客した人数
・再び来店した客数
・顧客の肌に触れた回数
・肌診断など美容機器を使った回数

そして、確かに目先の売上は減少したものの、
過去10年間減り続けてきた会員組織、

「花椿会」

の会員数は、昨年春の550万人を底に増加に転じ、
毎月5%のペースで増えているそうです。

売上ノルマを撤廃するという資生堂の挑戦が、
最終結果である、

「売上の増加」

に反映されてくるまでにはまだ時間が必要でしょう。

しかし、正しい方向に向かっていることは
間違いないと思います。

資生堂の前田社長も、

「5年間は売上が落ちてもかまわない」

と腹を括っています。

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松尾 順

有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。

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