実感のない言葉

2007.10.19

営業・マーケティング

実感のない言葉

松尾 順
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

私は、マーケターとしてのキャリアを 「リサーチャー」 から始めました。 「リサーチャー」の仕事は、簡単に説明すると、 消費者対象のアンケート調査などの企画立案や調査票の設計、 データの集計・分析、報告書作成等を行うものです。

ところが、30代以降は、
企業の会社案内・製品パンフの文面や、
Webサイトのテキストベースのコンテンツ、
ユーザー導入事例記事の執筆など、

「コピーライティング」

の仕事が段々増えてきました。

これは、リサーチにつきものの「報告書作成」を通じて、
文章力がずいぶん鍛えられたことがベースにあると思います。

しかし、今でこそ白状できますが、
調査報告書を書き始めたばかりの頃の私の文章力は

「幼稚園児レベル」(いや本当に!)

私の支離滅裂な文章を見た上司には、
メタメタにけなされ、ずいぶん落ちこみました。

しかし、落ち込んでばかりではいられないと、
あわてて「文章作成入門」といった通信教育を受講し、
必死になってトレーニングしたものでした。

こんな私ですから、残念ながら、
文章作成や言葉に対して特段優れた感性を
持っているわけではありません。

だからこそ、プロとしてお金をいただいて文章を書く以上は、
言葉の使い方にできるだけ細心の注意を払うようにしています。

さて、前置きが長くてすいません。

最近、私がどうも気になってしょうがないのは、

「一見きれいに決まっているけれど、実感のない言葉」

の氾濫です。

例えば、あるダイレクトEメールのキャッチコピー。

「御社の提案書の説得力が10倍増します!」

一瞬、「おっ」と目に留まる一文ではあります。
しかし、なんか白々しいと思いませんか。

「10倍も増す」なんてどうやって調べたんだい?

と突っ込みたくなる。

伝わってこないですよね。
残念ながら、このコピーの「説得力」は低い。(笑)

なぜ、上記コピーは実感が感じられず、
相手に伝わらない結果に終わっているのでしょうか。

その答えはずばり「ウソ」をついているからです。

資生堂/TSUBAKI「日本の女性は、美しい」
新潮文庫「Yonda?」

などを手がけたコピーライターの谷山雅計氏は、著書の

『広告コピーってこう書くんだ!読本』(宣伝会議)

の中で、

“人はコピーでウソをつく”

と指摘しています。

そして、谷山氏は、その具体例として、
「古本屋に若者をもっと呼ぶためのコピーを作れ」
というお題に対する学生の答えを示してます。

「古本屋で本を買ったら、
 あるページに前にもち主の涙の跡があって、
 自分も同じところで感動した」

一見きれいに決まっている。
でも、実感が感じられないはずです。

本を読んでいるとき、
涙が本の上にぼろぼろ落ちるような人が
そもそもどれだけいるのか?

あるいは、

もし実際に涙がこぼれた跡だとしても、
後日、その本を開いた別の人が、
単なるしみにしかみえないであろうものを
果たして「涙」と認識できるのか?

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有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。

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