「朧気になる日常と非日常の境界」

2007.08.24

ライフ・ソーシャル

「朧気になる日常と非日常の境界」

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

当たり前だと思っている自らの日常。しかし、思わぬところで非日常との境界線がおぼろげになっていることに気付く瞬間がある。夏期休暇中に南の島で考えた“日常”と“非日常”をキーワードに記してみる。

■ニンテンドーをめぐる日常と非日常

 ゲーム機として「NINTENDO」はそのまま英語で通用するそうだが、日本の子供たちにとってニンテンドーDSは日々の行動にもすっかり欠かせない存在になっている。旅の友としても空港の出発ロビー、機内などの退屈な時間をつぶすにはもってこいだ。だが、リゾート地に着いてからも暇さえあればゲーム機を開く。安くはない旅行代金を払った親たちは怒ったり嘆いたり。しかし、子供たちはどこ吹く風。ふと思うが、リゾートという非日常的な空間においてゲームの中の異世界に入っていくのはどんな気持ちなのだろう。

 そのリゾート地の外れ。中心地を遠く離れた、かつてサトウキビ栽培や畜産で栄えた街。今では産業構造が変わり、街はすっかり寂れ、親たちは遠く離れた中心地のホテルなどの観光産業に従事するために、長い時間家を空ける。そんな街の子供たちにもニンテンドーは人気だという。リゾート客の目には非日常的な美しい海と豊かな自然と映る風景が、彼らにとっては退屈な日常でしかない。退屈な日常から逃亡するが如く、ゲームの世界へ。そんな話を聞くと、美しい景観ももの悲しく見えてくる。

 しかし、傍らでゲームに興ずる日本の子供たちをもう一度見つめ、その日常を考えてみると、また違った姿がえてくる。日本の子供たちの日常といえば、学校に塾、習い事に受験などと忙しくも厳しい。その日常に代って、本来非日常であるはずのゲームの異世界が逆に日常化しているのではないか。置き去りにされた寂れた街の退屈な子供たち。忙しくも厳しい日々を過ごす日本の子供たち。全く環境は異なるが、日常から逃亡するが如くゲームの異世界に入っていく姿に両者が妙に重なって見えた。

■ネットというバーチャル空間での日常・非日常

 子供たちだけではなく、日々の生活の中で、日常と非日常を行ったり来たりしているのは筆者自身であると気付かされた。ネットへの接続をめぐっての出来事を通じてだ。

 最初の島は田舎ながら“高速インターネット回線あり”とのことだったが、どうにもうまくつながらない。仕方がないのであきらめてリゾートに耽溺する。すると、かつてない開放感が押し寄せてきた。知らず知らずのうちに、ネットという網に絡め取られていた自分に気付く。

 しかし、開放感も束の間。旅の後半は都会の島へ移動したが、そこでも無線LANにうまく接続できなかった。次第に“ネット飢餓状態”になってきた。現地での行動もネットでの検索に依存しようと思っていたし、旅行中に仕上げたい仕事も検索が欠かせなかったからだ。しかし、あきらめて旅行情報は現地で人に丁寧に聞く、パンフレットを収集するという情報収集の基本に戻った。仕事は頭の中の情報を頼りに仕上げた。すると、基本に立ち返った旅行の楽しさや、仕事における頭の中の棚おろしという、思わぬ効用が現れた。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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