~高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~ 1980年~90年台にかけての日本経済のバブルが膨れ上がって破裂前後の頃の、筆者のドロドロの商社マン生活の実体験をベースに、小説化しました。 今も昔も変わらない営業マンの経験する予想を超えた苦楽物語を、特に若手営業マンに対して捧げる応援メッセージとして書きました。
第一章 田舎学生から激動の社会人生活へ
篠原由美子が話し始めた。
「テレックスというのはね。送り先、受信先が
コードで決まっているの。
例えばこの{FRM NYKYK}というのは、
{大日本商事米国株式会社機械部から着信}という
意味なのよ。
あと、{WND MTKS}なんて略語があって、これは、
{Well noted. Many thanks了解しました。大変ありがとう}
という定例句で、文章の終わりに使うもの。
{PLS IFO YR STUATN ASAP}は
{Please inform your situationas soon as possible
大至急そちらの状況を連絡されたし}。
テレックスの料金は語数に比例して課金されるから、
少ない字数でかつわかりやすく複雑な内容を伝えなくては
いけないから大変なのよ。
それと、プロジェクトによっては、万が一競合他社から
情報が盗まれることを考えて、暗号をよく使うの。
例えば海外のお客様のキーパーソンを呼ぶ場合、
名前を直接書かずに、EBI-SAN, TAKO-SAN, IKA-SANなど
魚や動物の名前をつけて読んだり、プロジェクト名にも
MAGURO ProjectとかMORINO-KUMASAN Project
とかのようにカモフラージュしたりしているわ。
< 何か余計目立つんとちゃうかな・・・ >
例えばMAGUROというのは、適当につけているの
じゃないのよ。
Malaysia Gulf Rolling Mill Project(マレーシア
国湾岸圧延プロジェクト)の頭文字を取ったりしている
わけ。
だけど人に対する魚の名前は、本人がどの魚に似ているか
など冗談半分のような理由からつけているみたいよ。
面白いでしょ」
< おもろいか?これが。
そんなことよりめっちゃ大変やん これって。
こんな大変なもん毎日見て、理解して、判断して、
それに対して返信するみたいなこと、えー、そんなん
できひんで。 絶対できひんって >
篠原由美子は、宮田の席の横にイスを置いて座り、
宮田の顔を覗き込むようにしてけらけらと笑った。
宮田は一緒に笑えない自分が悔しかった。
本当は余裕を見せて一緒にげらげら笑いたい。
だけど、ただでさえわからないテレックスに暗号まで
あると聞いて、これから自分がしなくてはいけない
苦労を考えると、とても笑顔どころか、余計顔が
こわばっていくのであった。
「どないですか? 自分」
突然、声をかけられて、ふっと目の前を見ると、
青い目をした金髪の端正な顔立ちの白人青年が、
ウインクをしながら、話しかけてきた。
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商社マン しんちゃん。 走る!
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