~高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~ 1980年~90年台にかけての日本経済のバブルが膨れ上がって破裂前後の頃の、筆者のドロドロの商社マン生活の実体験をベースに、小説化しました。 今も昔も変わらない営業マンの経験する予想を超えた苦楽物語を、特に若手営業マンに対して捧げる応援メッセージとして書きました。
第二章 一人前への長い道のり
「おう!宮田か。元気にしてるか?
今日もう終わるけど、久しぶりに飲みに行かんか?」
入社直前の富士山の新人強化合宿以来、大変気が合う同期仲間の
一人であった。
2人は会社近くの居酒屋に入って、まずはビールを頼んで、乾杯を
した。
「宮田はまだましだよ」
森永が言った。
「俺なんか、配属以来アルミ漁船を、漁師に売って来いだぜ。
猟師の家の前で待ち伏せして、先輩と一緒に代金を取立てた
こともあったよ。
≪ 支払い御願いします! ≫
と言いながら先輩と一緒に頭下げると、決まって
≪ 次の漁まで待ってけろ。 支払い条件は大漁翌月末現金
払いだったべな ≫ だ。
実際は契約書で納入翌月末現金払いとちゃんと規定されているのに
だよ。
いつ大漁になるかなんてわからないよ。」
森永は続けた。
「ある先輩なんかは、納入したアルミ漁船の性能が契約通りのもの
が出なかったんだ。 その時怒った漁師さんが、
≪ おれらは命張って漁に出てんだ! こんな船で漁に出られるか!
この野郎! 海がどれだけ危険な職場か、お前らサラリーマン
にはわからんやろ! ≫
と叫びながら、その先輩をその船でしけの海に連れ出し、そのまま
先輩は海に投げ込まれ、危うく溺れ死ぬとこだったこともあったと
言っていた。
また、違う先輩は魚群探知機の営業で、性能が出ないと怒った漁師
さんに、
≪ 海の底行って本当に魚がいるか見てこいや! ≫
といって、投げ込まれたりしたこともあったろうだ。
それに比べれば、お前の担当している日本非鉄金属は
業界トップの大手だし、そこまでえげつなくはないだろうよ」
宮田は、森永の話を聞いてげらげら笑っているうちに、皆同じような
ことをやっているんだと思うとなんだかホッとし、本音で話し合える
同期というのは実にいいものだとつくづく思っていた。
それと、商社も結構面白いなと思い始めていた。
外から見る偶像と、実際その中で体験してみて感じることが違うのは
どの世界でも同じである。
ある意味そのギャップが大きい職業ほど、実際に体験する現実と、
期待とのギャップが大きいため、失望したりして大変だが、その分
それに携わった人間にしか分からないやりがいというものがあるの
だろう。
例えば、医者、弁護士、パイロット、プロ野球選手、経営コンサル
タント、女子アナ、キャビンアテンダントなどなど。
見かけは華やかで皆の憧れの仕事だと一般的にはそう思われる場合
もあるが、その仕事内容は外部からは垣間見ることができないほど
プロフェッショナルとして大変厳しいものがあり、だけどもその一方
で、その分やりがいも多いのであろう。
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商社マン しんちゃん。 走る!
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