~高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~ 1980年~90年台にかけての日本経済のバブルが膨れ上がって破裂前後の頃の、筆者のドロドロの商社マン生活の実体験をベースに、小説化しました。 今も昔も変わらない営業マンの経験する予想を超えた苦楽物語を、特に若手営業マンに対して捧げる応援メッセージとして書きました。
宮田は、社長室の壁に掛かっていた写真の中で誇らしげに微笑んで
いた、社長と思わしき人物の顔を思い出していた。
自分が従業員とともに汗水たらして苦労して育てあげた会社がこう
なってしまっては、さぞ無念であったに違いない。
「宮田。 何でもいいから価値のありそうなものを車に積み込め。
何もないよりましだ!」
宮田は、帰りの車の中で打ちひしがれていた。
大学時代抱いていた、華やかな商社でのビジネスマンのイメージが、
頭の中でがらがらと崩れていく音がした。
配属早々から、ビジネスのどろどろした裏の世界を間近かに見せつけ
られて、大学時代北海道の大地でのびのびと生活していた自分とは相
当の決意をもって決別し変わっていかなくては、とてもこれから、
こんな世界でやっていけないのではないかという漠然とした不安感を
抱いたのだった。
< あの後藤社長は今どないされてんのかな? 奥様や家族は一体
どうなってはるんやろ・・・・ >
大学時代に倒産した自分の大阪の実家の親父の顔がだぶっていた。
額に飾られた写真の中の誇らしげな社長の顔が頭から離れなかった。
帰りの車の中で、関が、宮田の心中を察してか、こう言った。
「宮田よ。
総合商社は国内外数え切れないほどの数の取引をしているんだ。
それも売り買いともにな。
商社の取引では、今日のようなことはよくある話なんだ。
常に売掛金などの債権回収など貸し倒れリスクと隣りあわせで、
ぎりぎりのところで商社はビジネスをしているんだ。
別に商社だけじゃない。
ビジネスはお金を手にしてなんぼの世界なんだよ。その中でも
総合商社は特にそうなんだ。
何故だか分かるか?
なんせ机と電話しかないからな。 回収漏れは即その契約の赤字
につながる。 例え、それが海外のビッグプロジェクトであっても
同じだ。 海外のプロジェクトのほうがもっと厄介かもしれない。
契約当事者が法人相手だけではないからな。 国を相手にして商売
する場合もある。
その場合は、相手国の国情などがリスク要素となってくるんだ。
カントリーリスクって聞いたことないか?」
「い、いえ・・・・」
< そんな言葉きいたことない。カントリーリスクと言えば
北海道がカントリー、そのリスクのことかいな?>
「そういうリスクというのが常に付きまとう。
国相手の場合のリスクは、非常危険といって、民間企業がコント
ロール不可能な、その国特有のリスクを分析しなくてはならない。
例えば、戦争、紛争、テロが起こる度合い、それらから影響を受
ける国家体制の安定度合い、為替リスク、外国為替法の安定度に
よっては、急に現地で苦労して稼いだお金を、海外送金停止という
制限によって、日本の本社に送金できなくなるなんてこともありえ
るんだ。 俺が駐在していた中東サウジアラビアの国なんて、まだ
ましなほうだったけど」
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
商社マン しんちゃん。 走る!
2009.06.12
2009.06.12
2009.06.06
2009.06.03
2009.06.01
2009.05.21
2009.05.20
2009.05.16
2009.05.14