「世界経済を回復軌道に乗せる」という目標を掲げ、首脳宣言を採択した金融サミット(G20)。景気刺激策で目標数値を明記することができなかった中で、世界中が注目したのが中国の動向だ。その理由は……? [藤田正美,Business Media 誠]
ロンドンで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合(金融サミット)。2008年秋にワシントンで開かれて以来、2度目の金融サミットとなった。世界のGDP(国内総生産)の8割を占めるというG20の前では、もうG7(先進7カ国首脳会議)はすっかり影が薄い。
この会議では、大型財政支出による景気刺激策が必要とする米国、英国、日本と、財政赤字の観点から慎重なドイツ、フランスとの対立を表面化させないでおくことができるかどうかが焦点だったが、目標数字を明記しないことで何とか収めることができた。
2009年、中国はどこまで成長できるのか?
もう1つ、世界が注目していたのが中国の動向である。この会議に先立って発表された中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁の論文だ。「世界に流動性を供給すると同時に、通貨価値の安定を確保することはできない」として、米ドルを名指すことこそしなかったが、基軸通貨としての米ドルの限界を指摘した。そして米ドルに代わる基軸通貨として、周総裁はIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)を提案している。
中国は現在、約2兆ドルの外貨準備を保有しているが、そのかなりの部分は日本と同様に米国債。米ドルの為替相場が値下がりすれば、その損失は大きい。まして米国は景気後退から逃れるために、金融安定化だけでなく大規模財政支出による景気刺激に乗り出している。米ドルがばらまかれれば、為替相場の下落は避けられないとして、上のような発言につながったと見られている。
これに対して、米国はもちろん反発した。オバマ大統領が新たな基軸通貨が「必要とは思わない」と発言したのに続いて、ガイトナー財務長官も「ドルは支配的な準備通貨」と述べて、周総裁の「提案」に反論した。G20はこの後開かれただけに、胡錦濤国家主席が米国のオバマ大統領と会談したときに、どう切り出すかが注目されていた。
結局、胡主席は新しい基軸通貨について触れることはなかった。いかに経済的実力がついてきたとはいっても、中国はまだ世界第3位。日本をもう間もなく追い越すとはいえ、まだ1人当たりGDPでは日本の10分の1だ。それだけに世界経済の運営について、まだ中国が本気で提案する機が熟していないと考えているのかもしれない。
それでもこの経済危機に際していち早く60兆円近くに上る景気対策を打ち出したリーダーシップを西欧諸国に印象付けることに成功している。実際、周総裁は、もし世界が中国のように運営されていたら、もっと素早く決断できただろうし、時間のかかる手続きに悩まされることもないと示唆したという。
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