地政学リスクがもたらす新たな競争

2026.08.26

経営・マネジメント

地政学リスクがもたらす新たな競争

野町 直弘
調達購買コンサルタント

先日発表された中国自動車メーカーBYDの軽EV「RACCO」の市場参入についての戦略的な意味とは、どういったものなのでしょうか?

世界3位の市場規模を持つインドはさらに徹底しています。2023年、BYDが提示した10億ドル規模のEV工場建設計画を、インド政府は安全保障上の懸念を理由に拒否しました。2025年にはインドの商工相が「BYDについては現時点でノーだ」と明言しています。関税ではなく、参入そのものを拒んでいます。

一方で、中国本国市場は、既にEVメーカー同士の激しい価格競争と成長鈍化に直面しています。米国、欧州、インド、中国本国――主要な大市場が、関税や投資規制、過当競争という理由で、こと
ごとく塞がれていく中で、日本は関税ゼロ、参入規制なし、なおかつ相応の購買力を持つ、数少ない"開いている"大市場として残っている状況なのです。

RACCOへの本気度は、「日本が魅力的だから」ではなく、「選べる場所が、日本以外になかったから」と説明する方が、理に適っています。

特定の産業で地政学リスクにより、市場参入が規制され、向かう方向が意外な市場に向かう、という構図は、自動車以外の通信・インフラ機器などの業界でも、同様の姿が見えています。

米連邦通信委員会(FCC)は2026年6月、ファーウェイ・ZTE・ハイテラ・ハイクビジョン・ダーファ・テクノロジーの中国5社が製造する通信機器を全面輸入禁止としました。日本でも、これら企業の製品は政府調達からすでに事実上排除されており、2027年夏を目途に、地方自治体のIT調達からも排除される方針が固められています。

一方で、スマートフォンやPC、家電といった一般消費者向けの製品には、こうした締め出しはほとんど及んでいません。締め出しが起きるのは、雇用の裾野が広い、あるいは安全保障・技術覇権に直結すると各国政府が判断した、「特別扱いされる産業」に見られます。

自動車は、その特別扱いされる産業の代表格として、関税や投資規制の壁が築かれています。通信インフラ機器は、すでに壁が築かれた後の産業です。このように、グローバル企業にとって、地政学リスクが意外な市場戦略につながり、新たな競争をもたらすということが起きています。

バッテリー、半導体、ロボティクス、重要鉱物、AIなどは、次の「特別扱い」産業となり得るでしょう。そこでも同じように、地政学リスクから、競争を制約する圧力がおこり、新しい競争が起こりうるのです。

我々は「次にこの構図が現れるのはどの産業か」ということにも目を向けるべきでしょう。これまで、地政学リスクというと、「サプライチェーンが分断される」「調達が困難になる」という、守りの点から考察、対応することが多かったです。しかし今回の軽自動車市場でのRACCOの参入事例など
が示しているのは、地政学リスクが、意図せざる形で市場構造そのものを変えてしまう、という側面です。

Ads by Google

野町 直弘

調達購買コンサルタント

調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。

フォロー フォローして野町 直弘の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。